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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1130号 判決 1997年7月17日

原告(反訴被告。以下「原告」という) 株式会社エス・エヌ・ケイ

右代表者代表取締役 川崎英吉

右訴訟代理人弁護士 高橋悦夫 永井真介 荒井俊且 重成薫

被告(反訴原告。以下「被告」という) ホリ電機株式会社

右代表者代表取締役 堀之内龍郎

右訴訟代理人弁護士 山崎哲男

主文

一  原告の主位的請求をいずれも棄却する。

二1  被告は、その販売する家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーに、別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用し、又はこれを使用した家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーを販売してはならない。

2  被告は、前号のコントローラーの容器箱、包装紙又はその広告に別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用してはならない。

3  原告の予備的請求にかかる差止請求中、その余の部分を棄却する。

三  被告は原告に対し、金一億二一八〇万円及び内金四〇六〇万円に対する平成六年一月五日から、内金三一八七万一〇〇〇円に対する同年四月一九日から、内金四九三二万九〇〇〇円に対する平成七年三月二四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

六  この判決の第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  本訴

(主位的請求)

1 被告は、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。

2 被告は、別紙物件目録記載の商品及び同商品の製造の用に供する金型、同商品を構成する部品である基板、レバー、ボタン、一五本ピンコネクター、ボディーを廃棄せよ。

3 被告は原告に対し、金一億二一八〇万円及び内金四〇六〇万円に対する平成六年一月五日(訴状送達の日の翌日)から、内金三一八七万一〇〇〇円に対する同年四月一九日(同月四日付訴えの変更申立書送達の日の翌日)から、内金四九三二万九〇〇〇円に対する平成七年三月二四日(同月二三日付訴えの変更申立書送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4 仮執行の宣言

(予備的請求)

1 被告は、その販売する家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーに、「NEO」又は「ネオ」の表示を使用し、又はこれを使用した家庭用テレビゲーム機ネオジオ用コントローラーを販売してはならない。

2 被告は、前項のコントローラーの容器箱、包装紙又はその広告に「NEO」又は「ネオ」の表示を使用してはならない。

3 主文第三項と同旨

4 仮執行の宣言

二  反訴

1  原告は被告に対し、金一億二七四八万二三二〇円及び内金一億二二二六万八四四〇円に対する平成六年二月九日(反訴状送達の日の翌日)から、内金五二一万三八八〇円に対する同年四月一四日(同月一九日付訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行の宣言

第二事案の概要

一  原告の本訴請求は、昭和五三年七月二二日に設立された電子技術応用ゲーム機のハード及びソフトウエアの研究、開発、製造、販売を主たる業務とする株式会社で、平成二年三月から(甲六三、証人疋島義隆)家庭用テレビゲーム機「ネオジオ(NEO・GEO)」(検甲一。本体とコントローラーからなるもの。以下「本件ゲーム機」という)及び業務用テレビゲーム機「ネオジオ(NEO・GEO)」を製造、販売している(争いがない)原告が、平成五年一二月一七日から本件ゲーム機本体にのみ接続可能な専用コントローラー(別紙物件目録一記載のもの。以下「被告製品(一)」という)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を使用して販売し、平成六年一二月二八日からその新製品として同様に本件ゲーム機本体にのみ接続可能な専用コントローラー(別紙物件目録二記載のもの。以下「被告製品(二)」という)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売している(争いがない)被告に対し、次の各請求をするものである(主位的請求(一)ないし(三)は選択的併合)。

1  主位的請求

(一) 映画の著作物の著作権に基づく請求

本件ゲーム機と「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」「サムライスピリッツ」「龍虎の拳」等(甲七)本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる専用の各種ゲームソフトウエア(以下「本件ゲームソフトウエア」という)によって受像機に映し出される影像の動的変化(動画)又はこれと音声によって表現されるものは、著作権法一〇条一項七号の映画の著作物に該当するところ、本件ゲーム機本体に接続されるコントローラーである被告製品(一)及び被告製品(二)(以下、合わせて単に「被告製品」という)を使用して影像の動的変化を映し出すことは、映画の著作物の上映(同法二六条一項)に当たり、被告が被告製品を製造、販売することは自ら右映画の著作物を上映したものと評価されるから、原告の専有する上映権を侵害するものであると主張して、同法一一二条一項、二項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるとともに、著作権侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する。

(二) 著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求

本件ゲームソフトウエアはプログラムの著作物(著作権法一〇条一項九号)として、その上映による影像及び影像の動的変化は映画の著作物(同項七号)として、それぞれ保護されるから、その著作者である原告は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について同一性を保持する権利(同法二〇条一項)を有するところ、被告は、被告製品にいわゆる連射機能を付加していることにより、右同一性保持権を侵害しているものであると主張して、同法一一二条一項、二項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるとともに、著作者人格権侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する。

(三) 不正競争防止法二条一項一号に基づく請求

本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機、ひいては原告が別売りしている対戦モード(二人のプレイヤーが対戦することにより格闘競技が楽しめるもの)用コントローラー(本件ゲーム機本体とセットになっているものと同一の商品。以下「原告製品」という)が原告の商品であることを示す自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当し、遅くとも平成四年一二月中にはテレビゲームのユーザー及び取引者の間でいわゆる周知性を取得したところ、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出される各種影像とこれら影像の変化の態様は、原告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出されるものと同一であるから、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであり、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項、二項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるとともに、同法四条に基づき損害賠償を請求する。

2  予備的請求(不正競争防止法二条一項一号)

原告が本件ゲーム機及び別売りの原告製品に使用している「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、遅くとも平成四年中には、原告の製造、販売する本件ゲーム機及び原告製品が原告の商品であることを示す商品表示としてテレビゲームのユーザー及び取引者の間で周知性を取得したところ、被告が本件ゲーム機本体にのみ接続可能な被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであり、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項に基づき、被告製品についての「NEO」又は「ネオ」の表示の使用及びこれを使用した被告製品の販売の差止め並びに被告製品の容器箱、包装紙、広告についての「NEO」又は「ネオ」の表示の使用の差止めを求めるとともに、同法四条に基づき損害賠償を請求する。

二  被告の反訴請求は、原告の本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする被告製品の販売の停止等を求める仮処分の申立て(当庁平成五年(ヨ)第四一〇五号)は、いわゆる不当訴訟として被告に対する不法行為を構成し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであると主張して、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求するものである。

三  基礎となる事実

1  本件ゲーム機は、前記のとおり本体とコントローラーによって構成され、その本体に別売りの本件ゲーム機専用の本件ゲームソフトウエアのカセットを差し込み、かつ、本体を家庭用テレビ等の受像機に接続することによって、ゲーム機として使用できることになる。

本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)並びに本件ゲームソフトウエアのそれぞれの意義、機能は次のとおりである(甲二、六一、弁論の全趣旨)。

(一) 本件ゲーム機本体

本件ゲーム機本体は、コンピュータのCPU(Central Processing Unit中央演算処理装置)を内蔵しており、プレイヤーがコントローラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報(電気信号)及びそのゲーム操作情報に対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報(電気信号)をCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、ビデオ回路を通じて影像信号を、音声回路を通じて音声信号を受像機に出力し、もって受像機の画面上に映し出される影像を変化させ、併せてスピーカーから音声を発生させる。

(二) コントローラー(原告製品)

コントローラーは、本件ゲーム機本体の端末と電気的に接続されていて、電気信号により、ゲーム操作情報を本件ゲーム機本体にあるコンピュータのCPUに入力する機器である。

(三) 本件ゲームソフトウエア

本件ゲームソフトウエアは、ゲームカセット内に収納されていて、プログラムメモリーに、各テレビゲームのキャラクターや背景の形・色の影像情報、効果音やBGMの楽器音の音声情報、及びキャラクターをどの場面でどのように動かし、影像に合わせてどのような音楽を発生させるかを指示し、またゲームプレイヤーのコントローラー操作に対応してゲームストーリーを変化させる多数多種の命令情報を記憶しており、右影像情報、音声情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に指示するものであって、テレビゲームのあらゆる情報は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定され蓄積されている。

プレイヤーが本件ゲームソフトウエアの収納されているゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込みスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレーション画像が画面上に規則的に繰り返し映し出される。そして、コントローラーのスタートボタンを押すと、本件ゲームソフトウエアに規定、蓄積された情報の範囲内で、影像が変化し、ゲームストーリーが展開していく。

本件ゲームソフトウエアのうち平成三年一二月発売の「餓狼伝説」は、いわゆる格闘ゲームの一種であるが、「マーシャルアーツ」(格闘技の一流派)の達人「テリー・ボガード」ら三人の主人公キャラクター及び対戦相手キャラクターを設定し、右主人公キャラクターが史上最強の武闘会「キング・オブ・ファイターズ」に出場し、「必殺技」及び「超必殺技」を駆使して対戦相手キャラクターである七人の格闘家との格闘を勝ち抜き、最後に仇敵「ギース・ハワード」との宿命の戦いに挑むというストーリー展開のものであり、平成四年一二月(甲三二)及び平成五年七月(甲三〇)にはテレビアニメ化されてフジテレビ系で全国放映された。

2  被告は、平成五年一二月一七日から「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を使用した被告製品(一)を二万個販売し、平成六年三月八日にこれを追加販売し(その個数については争いがあり、原告は二万個と主張し、被告は九九〇〇個と主張する)、また、平成六年一二月二八日から「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用した被告製品(二)を二万四三〇〇個販売した(平成六年三月八日の被告製品(一)の追加販売数を除き、争いがない。但し、平成五年一二月一七日からの被告製品(一)の販売数については、自白の撤回の問題がある)。

四  争点

1  被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害するものであるか(本訴主位的請求の映画の著作物の著作権に基づく請求)。

2  被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであるか(同じく著作者人格権〔同一性保持権〕に基づく請求)。

3  本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか(同じく不正競争防止法二条一項一号に基づく請求)。

4  本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、原告の商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか(本訴予備的請求〔不正競争防止法二条一項一号に基づく請求〕)。

5  右1ないし4のいずれかにより、被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額。

6  原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として不法行為を構成し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか(反訴請求)。

7  右6により原告が損害賠償義務を負うとした場合に、被告に対し賠償すべき損害の額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害するものであるか)について

【原告の主張】

原告が本件ゲーム機専用に創作し、著作権を有する本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って、本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、後記1のとおり映画の著作物(著作権法一〇条一項七号)に該当するから、原告は、その上映権(同法二六条一項)を専有するところ、被告は、2のとおり、本件ゲーム機専用のコントローラーである被告製品を製造、販売することにより、被告製品を購入したユーザーを被告の手足又は道具として利用して、右映画の著作物を上映しているものであるから、原告の上映権を侵害するものである。

1 本件ゲームソフトウエアのプログラムが著作権法によって保護される著作物であることは明らかであるが、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って、本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、本件ゲームソフトウエアとは別に、映画の著作物(著作権法一〇条一項七号)に該当し、著作権法による保護を受ける(いわゆる「パックマン事件」に関する東京地裁昭和五九年九月二八日判決・判例時報一一二九号一二〇頁、判例タイムズ五三四号二四六頁。以下「パックマン事件判決」という)。

すなわち、右影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、映画の著作物として認められるための次の各要件を充足している。

(一) 表現方法

本件ゲームソフトウエアは、本件ゲーム機を操作することによって、テレビの受像機の画面上に影像が動きをもって見えるという効果を生じさせるものであって、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ている。

(二) 存在形式

映画の著作物は、「物に固定されている」ことが必要であるところ、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像及びその動的変化は、すべてゲームカセット内のプログラムメモリーに電気的に記憶・蓄積され、固定されている。プレイヤーによるコントローラーのレバー及びボタン操作により受像機の画面上に映し出される影像にいかなる変化が生じてゲームストーリーが展開してゆくか、それに連動していかなる音声が発せられるかは、すべて情報としてプログラムメモリーに規定され蓄積されたところによるのであって(したがって、プレイヤーが本件ゲームソフトウエアのプログラムから独立して絵柄、文字等をコントローラーの操作により新たに描くことは不可能である)、理論上はプレイヤーが全く同一のレバー及びボタン操作を行えば、受像機の画面上に映し出される影像の変化も全く同一であるから、その意味で本件ゲームソフトウエアの情報に従って受像機に映し出される各テレビゲーム固有の影像及びその動的変化は同一性を保って存続し、かつ、再現可能な状態でプログラムメモリーに固定されている。

(三) 内容

「餓狼伝説」等の本件ゲームソフトウエアには、それぞれに特有のキャラクター(登場人物など)、キャラクターの影像の変化及びそれに連動して発せられる音に関する情報が収納されており、コントローラーから入力されるゲーム操作情報とそれに対応して本件ゲームソフトウエアのプログラムから発せられるゲーム情報が本件ゲーム機の本体に内蔵されたCPUにより合成処理され、もって受像機に映し出される影像が変化しゲームストーリーが展開していくのであるから、かかる影像及び音声によって表現されるものは、本件ゲームソフトウエアのそれぞれに特有のものであり、知的文化的精神活動の所産として生み出されたものである。

なお、本件ゲームソフトウエアは多種類に及び(甲七)、その全部が被告製品の操作により上映可能であるため、「映画の著作物」を一種類に特定できないが、被告製品を接続した本件ゲーム機により上映できるのは本件ゲームソフトウエアに明確かつ限定的に特定され、しかも被告製品を購入したユーザーは、本件ゲームソフトウエアのいずれかを例外なく上映するのであるから、映画の著作物を一種類に特定できなくても、被告による上映権侵害を認定する上で全く問題とならない。

2 被告は、右1のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラーとして、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せしめているのであるから、ユーザーではなく被告が、上映の主体すなわち上映権(著作権法二六条)の侵害行為者である。

(一) コントローラー(原告製品)は、受像機に映し出される影像及びその動的変化の上映には必要不可欠の機器である。

(1)  本件ゲーム機を実行してテレビゲームを行う場合、受像機に映し出される影像及びその動的変化との関連において、コントローラー(原告製品)は以下の役割を果たしている。

<1> コントローラーのレバーは、プレイヤーの選択したキャラクターを受像機の画面上においてレバーを倒した方向(上下左右)に移動させる機能等を持っており、四つのゲーム操作用ボタンは、各ボタン別にキャラクターに所定の行動を起こさせる機能等を持っている。

<2> コントローラーの入力操作により本件ゲーム機の本体に電気信号が入力されると、CPUがこれを読み取り、そのゲーム操作情報に対応したゲーム情報、すなわちプレイヤーの選択したキャラクター及び相手キャラクターを移動・行動させたり、場面及び背景を変化させる情報等が本件ゲームソフトウエアから発せられ、これらの全情報をCPUが合成処理して最終的に受像機の画面上の影像を変化させる。このように、プレイヤーがコントローラーを操作していかなる入力信号をどのようなタイミングで送るかにより、本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報が決定されて影像が変化しゲームストーリーが展開する仕組みになっており、その意味で、コントローラーは受像機の画面上に映し出される影像の変化とゲームストーリーの展開を決定づける条件入力機能を果たすものということができる。そのため、前記のとおり理論上はプレイヤーが全く同一のコントローラー操作を行えば、受像機の画面上に映し出される影像の変化も全く同一となる。

<3> 対戦モード用コントローラー(原告製品)を本件ゲーム機本体に追加して接続し、ゲーム開始時に対戦モードにしておくことにより、二人のプレイヤーによるテレビゲームのプレイが可能である。この場合、二人のプレイヤーの操作するコントローラーが発する電気信号はCPUによりそれぞれ独立して読み取られ、それぞれのプレイヤーが選択したキャラクターが移動・行動したり、場面及び背景が変化する情報等が本件ゲームソフトウエアのプログラムから発せられ、これらの全情報をCPUが合成処理して最終的に受像機に映し出される影像を変化させる。

したがって、影像の動的変化は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定されているとはいえ、コントローラーは、対戦モード用の原告製品を含め、これをプレイヤーが操作して入力信号を送ることで有限な影像の動的変化のうちの一つの影像の動的変化を決定づける機能を果たしており、受像機に映し出される影像及びその動的変化の上映には必要不可欠の機器ということができる。

(2)  被告はコントローラーをもって本件ゲーム機本体から全く独立した周辺機器にすぎない旨主張する。しかし、そもそもテレビゲーム機のシステムをどのような回路構成にし、どのような信号をどのような形態で入出力する仕様とするかは、ハードウエアの設計いかんによるのであって、かかる回路構成等が全体として一つのシステムを構築しているのであり、情報入力回路部分もそのシステムの構成部分にすぎない。ただ、本件ゲーム機においては、テレビゲームをする上での操作性の観点から、情報入力回路の部分を他の回路から分離してコントローラーという別個の機器とし、コネクターにより本件ゲーム機本体の回路に接続してそのハードウエアのシステムを完結するという設計にしているのである。したがって、本件ゲーム機の専用コントローラー(原告製品)は本件ゲームソフトウエアを上映する本件ゲーム機のハードウエアの基本的な構成部分であり、本件ゲーム機本体から完全に独立した周辺機器というようなものではない。

(3)  また、被告は、原告の主張する右「システム」の意味を単に本件ゲーム機本体、コントローラー及び本件ゲームソフトウエアによって構成されていることと曲解して、右システムそれ自体は顕著な事実であるとか、コントローラー自体に新規性はないと主張するが、右の三つからなる構成にすることのみがシステムではなく、本件ゲームソフトウエアにいかなる情報をどのように蓄積させるか、本件ゲーム機本体及びコントローラーをどのような回路構成等にすることによりいかに効率的な情報の入出力及び合成処理を可能とするかが正にシステムの中核をなすのであるから、被告の主張は誤りである。

被告は、コントローラーは単なるスイッチであるとも主張するが、コントローラーが単にスイッチの機能を有するにとどまらないことは、以上に述べたところから明らかである。

(4)  更に、被告は、それがなければ動画を上映できないという意味における機能的一体性という点では、テレビこそ不可欠なものであり機能的一体性を有するものであるとして、被告製品の製造販売が著作権侵害になるならテレビの製造販売も著作権侵害になるはずである旨主張するかのようであるが、テレビは、その入力信号の種類、形態及び入出力端子部分が統一的に規格化され、かつ一般的に周知となっており、その入出力端子にはすべてのゲーム機メーカーのテレビゲーム機のみならず、オーディオ機器一般が接続できる上、それ自体で一つの完結したシステムを形成した独立の機器であるのに対し、後記のとおり、専用コントローラーを含む本件ゲーム機のハードシステムは一般的・統一的に規格化されておらず、被告製品は本件ゲーム機本体にのみ接続・対応することを目的として、原告製品の情報入力システムを盗用して製造されているため、現に本件ゲーム機本体以外には接続・対応できないものであるから、テレビの製造販売は著作権侵害にならないが、被告製品の製造販売は著作権侵害になるのである。

(二) テレビゲーム機は、ゲーム機メーカー各社がそれぞれ独自に開発、設計しており、そのハードウエア及びソフトウエアは、一般的・統一的に規格化されていない。そのため、原告が開発、設計した本件ゲーム機本体に接続できるコントローラーは、本件ゲーム機本体のために原告が開発、設計した専用コントローラーだけであり、他のゲーム機メーカーのコントローラーを本件ゲーム機本体に、また原告の専用コントローラーを他のゲーム機メーカーのテレビゲーム機にそれぞれ接続することはできず、仮に接続できたとしても正常な入力動作は不可能である。しかるに、被告は、以下のとおり、原告製品の情報入力システムを盗用することにより、同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を製造、販売しているものである。

(1)  原告が本件ゲーム機本体及びコントローラーの回路構成等の仕様を公開していないにもかかわらず、被告製品は、本件ゲーム機専用に製造されたコントローラーであり、他のゲーム機メーカーのゲーム機には接続することができず、仮に接続できたとしても正常な入力動作は不可能なものである。

(2)  被告製品が原告製品の複製品であることは、被告製品の回路図(甲一一)を原告製品の回路図(甲一二)と比較することによっても明らかである。

まず、本件ゲーム機本体との接続部である一五本ピンの端子(コネクター)をはじめ、連射機能を果たす回路部分を除いたその余の回路は、被告製品内部に三個のコネクターが使用されている以外は全く同一である。右被告製品内部の三個のコネクターは、単に回路をつなぐものにすぎず、また、連射機能を果たす回路は、ゲーム操作用の四個のボタンのうち一個をプレイヤーが規則的に繰り返し押すことにより本件ゲーム機本体に規則的に同一の電気信号を入力する代わりに、連射ボタンを押してターボ状態(乙一〇の6)にすることにより右操作を行ったのと同様の電気信号を本件ゲーム機本体に入力できるというものにすぎず、右コネクターと連射機能用回路は単に原告製品の回路に付加されているにすぎないから、原告製品の回路と被告製品の回路の同一性を何ら損なうものではない。

更に、原告製品の回路図の<A>の部分は、コントローラーの認識信号の発信回路であり、本件ゲーム機の開発当初、このコントローラー認識信号をゲーム機本体に帰すことにより原告製品が接続されていることを本件ゲーム機本体が認識できるようにするために設けられた回路であるが、右認識信号が送られなくても原告製品が接続されているものと本件ゲーム機本体が判断するようにその仕様を変更したため、現在は全く不必要な回路になっている。それにもかかわらず、被告製品中にも同じ発信回路が存在することは、被告が右発信回路の必要性について特段の考慮を払うことなく、原告製品の回路構成等を模倣して被告製品を製造したことを示す動かし難い証拠である。原告製品のコネクターにおける所定の機能を持つ一五本のピンの配置の仕方についても、一五階乗すなわち一兆三〇七六億七四三六万八〇〇〇とおりもあるから、被告製品のコネクターにおける各ピンの配置が原告製品のコネクターにおける各ピンの配置と全く同一になる確率は、被告が意図的に原告製品の情報入力システムを盗用しない限り、殆どゼロに等しいところ、両者のピン配置は全く同一である。

(三) 映画の著作物たる本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映の主体すなわち上映権の侵害行為者は、ユーザーではなく被告である。

(1)  被告が被告製品を製造、販売するについて意図したところは、被告製品の購入者等がユーザーとなって、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して操作(使用)し、他のプレイヤーとともに「餓狼伝説2」等の本件ゲームソフトウエアの対戦モードプレイをすることであり、一方、被告製品を購入するユーザーは、被告製品をもっぱら本件ゲーム機本体に接続して使用することによって他のプレイヤーとともに本件ゲームソフトウエアの対戦モードプレイをするという動機づけのもとに購入するのであるから、かかるユーザーに対する被告製品の販売は、必然的にユーザーが被告製品を本件ゲーム機本体に接続して使用し、他のプレイヤーとともに本件ゲームソフトウエアの対戦モードプレイをするという結果をもたらすのである。したがって、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の製造販売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因果の流れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提として、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイできるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数のユーザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を惹起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行為と評価することができる。

そして、本件ゲーム機を使用して本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイする二人は、同時に対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむ観衆に該当するので、被告は、二人の観衆たるプレイヤーのうち一人を手足ないし道具として使用し、もって被告製品を実行して本件ゲームソフトウエア(対戦モード)を公に上映した、と評価されるものである。なお、現実には二人のプレイヤーのうちの一人が被告製品を使用するにすぎないが、ハードシステムの盗用は、その対象が全部であるか一部(必要不可欠な部分)であるかによって差異を生じないと解すべきであるから、一人のプレイヤーによる被告製品の使用は、他のプレイヤーによる原告製品の操作と相まって、本件ゲーム機によりテレビに対戦モードの動きのある影像を映し出したこととなり、このような行為を捉えて、法的には被告による本件ゲームソフトウエア(対戦モード)の上映と評価することができるのである。

ここで、本件ゲームソフトウエア(対戦モード)の上映に供された被告製品は、対価をもって購われたものであり、その対価は、被告製品なくしては対戦モードのプレイができないため、観衆が本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当するから、右上映行為が著作権法三八条一項にいう「営利を目的としない」上映に当たらないことは明らかである。

(2)  仮に、被告製品を購入したユーザーが本件ゲームソフトウエアの上映の主体であるとしても、被告もユーザーとともに上映の主体というべきである。すなわち、一般のビデオソフトウエアのようにどのビデオ機器メーカーの機器によっても上映できるものとは異なり、ユーザーによる本件ゲームソフトウエアの上映には、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の製造販売が絶対に必要である。そのため、原告製品のコピー商品である被告製品を購入したユーザーも、例外なく本件ゲームソフトウエアを上映するという必然的因果関係があるから、ユーザーが現実の上映者であるとしても、不特定多数のユーザーをして被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映せしめる意図のもとに、受像機に映し出される影像及びその動的変化の上映に不可欠な被告製品を製造、販売する被告もまた、同時にユーザーを手足ないし道具として本件ゲームソフトウエアを上映しているというべきである。

この場合、被告製品を操作して本件ゲームソフトウエアを上映する各ユーザーについては、公に上映しているわけではないから上映権の侵害とはならないが、これに対し、被告については、不特定多数のユーザーを手足ないし道具として本件ゲームソフトウエアを上映せしめ、もってその不特定多数のユーザーに見聞きさせているのであるから、被告が上映権の侵害行為者であるとすることに何ら問題はない。

(四) パックマン事件判決は、ビデオゲームのゲーム内容を表現するプログラム自体を言語の著作物とみることとは別に、ソースプログラムを記号語で書き、これを二進数の電気信号を発する形(機械語)にしたオブジェクトプログラムに転換してROMに収納し、これをコンピュータのCPUで読み取らせることにより、ビデオゲーム機によるアウトプットとして受像機上に表現される影像の動的変化又はこれと音声(音楽及び効果音)によって表現されているもの(のゲームストーリーの展開)を「映画の著作物」と認定した上、ビデオゲーム「パックマン」の無断複製ビデオゲーム機を設置し、「パックマン」を上映することが「パックマン」の上映権を侵害する不法行為に当たるとしたものであり、その意義は、<1>「パックマン」の影像それ自体の映画の著作物の著作権(上映権)に基づき上映権侵害に対処できるので、不正競争防止法二条一項一号にいう商品表示として保護する場合と異なり、影像自体の周知性を要件としない、<2>「パックマン」の上映は、ビデオゲーム機のROMに収納されたプログラムをビデオゲーム機の実行により受像機上に影像をアウトプットすることであるから、ハードウエアであるビデオゲーム機自体が無断複製品であれば、その実行が無断上映に該当することになり、ROMに収納されたプログラムまでが「パックマン」の無断複製品(いわゆる海賊版)であることを要しない、とした点にある。

ただ、パックマン事件判決は、顧客が「パックマン」の無断複製ビデオゲーム機を使用して動きのある影像を映し出す行為について、使用された無断複製ビデオゲーム機は、いかなる部分が再製されたものであるのか、全体が再製されたものであるのか、また、どのような方法により再製されたものであるかについては一切触れていない。しかし、ビデオゲーム機は、ソフトウエア及びハードウエアのシステムとして構成されており、ソフトウエアシステムのみならずハードウエアシステムも各メーカーが独自に開発、設計したものであって、ビデオゲーム機の無断複製品とは、ハードウエアシステムを盗用したものに外ならないから、パックマン事件判決は、ハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機による上映を無断上映と断じたものである。

そうすると、本件において、本件ゲーム機本体に、専用コントローラー(原告製品)の外に、対戦モード用の原告製品の代わりに被告製品を接続し、ユーザーと他のプレイヤーの二人がテレビ画面上のプレイ画像の移動影像及び固定影像の変化を見ながら、ユーザーが被告製品を、他のプレイヤーが原告製品をそれぞれ操作して特定の影像をコントロールし、両影像の変化が表現しまたデモンストレーション画像が表現する対戦モードのゲームストーリーの展開に参加して楽しむことについても、二人のプレイヤーによる対戦モードの本件ゲーム機の使用には対戦モード用のコントローラー(被告製品)が必要不可欠であり、しかも被告製品は原告の開発、設計した専用コントローラー(原告製品)の情報入力システムを盗用した模倣商品であるから、かかる被告製品の操作による本件ゲーム機の使用は、顧客とユーザーの違いを考慮に入れないとすれば、ハードシステムの盗用の点でパックマン事件判決の事案における「パックマン」の無断複製ゲーム機の使用と同視することができる。

仮に、パックマン事件判決がハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機による上映が問題になった事案ではなく、無断複製のゲームソフトウエア(海賊版)の上映が問題になった事案に関するものであるとしても、「パックマン」の著作権者の許諾なくして「パックマン」を上映する場合に該当するから、その上映権を侵害するものと目されるのである。

【被告の主張】

1 本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される映像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものが映画の著作物に当たるかどうかは不知。

2 仮に原告主張のように映画の著作物に当たるとしても、以下のとおり、被告が本件ゲーム機専用のコントローラーである被告製品を製造、販売することは、右映画の著作物について原告の有する著作権を侵害したことにはならないことが明らかである。

(一)(1)  原告は、コントローラーのレバー及びボタンは受像機の画面上においてキャラクターを移動、行動させる機能等を持っている旨主張するが、キャラクターを移動、行動させるものは、本件ゲームソフトウエアであってコントローラーではない。コントローラーは、単に本件ゲームソフトウエアに規定された情報に従ってキャラクターを移動させるきっかけを与えるための信号を本件ゲームソフトウエアに入力する道具(いわばスイッチの集合体)にすぎない。

すなわち、原告も主張するように(【原告の主張】1(二))、プレイヤーによるコントローラーのレバー及びボタン操作により受像機の画面上に映し出される影像にいかなる変化が生じてゲームストーリーが展開してゆくか等は、すべて情報としてプログラムメモリーに規定され蓄積されたところによるのであって、プレイヤーが本件ゲームソフトウエアのプログラムから独立して絵柄、文字等をコントローラーの操作により新たに描くことは不可能である。あくまでも本件ゲームソフトウエアに規定、蓄積された情報の範囲内で、影像が変化し、ゲームストーリーが展開していくのである。

(2)  原告は、本件ゲーム機本体、コントローラー及び本件ゲームソフトウエアによる「システム」なるものを考え、右「システム」については他の製造販売業者の参入を全く認めないとするかのようである。しかし、右の三つにより構成される「システム」それ自体は顕著な事実であって、同業他社のテレビゲーム機にも同様の「システム」が利用されているから、右「システム」自体は、原告が排他的な権利を持つものとして保護の対象となるべきものではない。

本件ゲーム機本体及び本件ゲームソフトウエアが著作権法によって保護されるか否かはともかく、それらと全く独立した、本件ゲーム機本体の周辺機器というべきハードウエアとしてのコントローラーは、元来コンピュータを作動させるために開発、製造、販売されてきた単なるスイッチであり、それ自体に新規性はなく、これについて特許権等の工業所有権又は著作権が成立しない以上、第三者の参入は自由であり、被告がコントローラーを製造、販売しても、原則として何ら法律上の問題は生じない。また、コントローラーは、このようにコンピュータ用に開発されたものであるから、本件ゲーム機本体への接続部分を換えれば他のいくつかのゲームソフトウエアの動画でも上映することができる。したがって、本件ゲーム機本体に接続できるコントローラーは、本件ゲーム機本体のために原告が開発、設計した専用コントローラーだけであるとする原告の主張は、誤りである。

原告の主張は、何ら根拠を示すことなく、いうところの「ハードウエアシステム」や「情報入力システム」なるものが、法律上当然に保護されるとするかのような主張に帰するものである。

(3)  原告は、コントローラーが動画の上映に必要不可欠の機器であるとして、コントローラーと本件ゲーム機本体との一体性を強調する。確かに、コントローラーもスイッチと同様の機能を果たすものであるから、いかなる電気製品もそのスイッチを入れなければ作動しないという意味では、受像機に動画を上映するために不可欠のものということができる。しかし、それがなければ動画を上映できないという意味における機能的一体性という点では、受像機たるテレビこそ、不可欠なものであり機能的一体性を有するものといわなければならない。ところが、原告といえども、テレビについてはその製造業者に対して著作権侵害であるなどと主張しないものと思われる。なお、コントローラーが構造的にも物理的にも本件ゲーム機本体と一体性を有しないことは明らかである。

(二)(1)  原告は、被告製品は原告製品の複製品である旨主張するが、被告製品は、連射機能という原告製品にはない機能を有しているから、複製品であるということはできない。仮にその一部に類似性が認められるとしても、原告主張の「回路」には新規性も創作性もなく、それを法的に保護して原告に独占的な使用権のようなものを認めるだけの価値はない。

(2)  被告製品において採用した一五本ピンのコネクターは、昔から任天堂によって使用されているものである。被告製品における原告主張の<A>の回路については、多種のコントローラーから当該ゲーム機本体に適合するコントローラーを識別できるという実益があり、更に、被告の生産した多数のコントローラーの品質を検査する際に工程の一部を省略でき、時間を半分ぐらい節約できるという実益がある。

また、原告は、一五本のピンの配置の仕方が一五階乗とおりあるにもかかわらず、被告製品と原告製品のピン配置は全く同一である旨主張するが、一五本のピンの殆どどれを選んでも同様の機能を実現できる場合に、その中のどれを選ぶかは、特別の意味を持たない。原告製品の回路配置に特別の意味はなく、原告製品と同一の効果を得るためには原告製品の回路配置が必然的なものというわけではなく、単に回路をつないだだけであって、そこには著作権法で保護すべき何らの創作性もない。

(三) 被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアに規定された情報をアウトプットした動的な影像をテレビの画面上に上映する主体は、あくまでユーザーである。

(1)  被告製品を購入して、原告の商品である本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を使用するユーザーは、本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を購入した者である。したがって、右ユーザーは、購入した本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を使用して、本件ゲームソフトウエアに規定された情報をアウトプットした動的な影像をテレビの画面上に上映する権原を有しているから、右ユーザーによる右影像の上映は、それが個人的使用の範囲にとどまる限り、右影像についての原告の上映権を侵害することにはならない。それ故、右ユーザーが右影像を上映する際に、コントローラーとして原告製品ではなく被告製品を使用したとしても、右ユーザーが上映権を有している以上、それが個人使用の範囲にとどまる限り、原告の上映権を侵害することにはならない。

右ユーザーを被告の「手足」ないし「道具」と抽象化できないことは明らかである。

(2)  原告は、被告製品購入の対価は、観衆が本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する旨主張するが、被告製品購入の対価は、あくまで被告製品に対する対価であって、原告主張のような料金の一括前払いではない。被告は、被告製品を販売したからといって、本件ゲームソフトウエアのテレビゲームを楽しんだユーザーから原告主張の料金(いわゆるロイヤリティー)を受領する権原はなく、現に受領していない。

(四) パックマン事件判決は、以下のとおり本件と事案を異にするものであり、本件には射程が及ばない。

まず、パックマン事件判決は、ゲームソフトウエアに関するものであって、本件のような周辺機器であるコントローラーに関するものではない。

また、パックマン事件は、業務用のビデオゲーム機が問題になったものであり、ゲームソフトウエアのカセットに該当する基板もコントローラーもモニターテレビもそのゲーム機の中に収納されているのに対し、本件は家庭用テレビゲーム機器が問題となっているものであり、構造的にも物理的にもコントローラーとゲーム機本体とは分離され、それぞれ独立の機器である。

更に、パックマン事件においては、不特定多数の顧客がコインを投入してパックマンのビデオゲームの影像を楽しむことはゲームソフトウエアの上映権を有しない者が影像を楽しむことなのであり、店舗経営者が右ビデオゲームの影像を右顧客らに楽しませることも上映権を有しない者の行為であるのに対し、本件においては、原告の製造、販売した本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を購入した消費者が個人使用の範囲で本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体を使用してその影像を上映し、楽しむのであって、まさに上映権者が右影像の上映を行っているのである。

二  争点2(被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであるか)について

【原告の主張】

本件ゲームソフトウエアはプログラムの著作物(著作権法一〇条一項九号)として、その上映による影像及び影像の動的変化は映画の著作物(同項七号)として、それぞれ保護されるから、その著作者である原告は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について同一性を保持する権利を有し、原告の意に反して右著作物の改変を受けないものとされている(同法二〇条一項)ところ、以下のとおり、被告が原告製品の機能、回路構成等を含めたシステムを模倣した上にいわゆる連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、購入したユーザーをして被告製品により本件ゲームソフトウエアを上映させる行為は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化(著作物)について原告が有する同一性保持権を侵害するものである。

1 テレビゲームにおける影像の変化及びゲームストーリーの展開は、ゲームソフトウエアのプログラムに規定されているゲーム情報に基づくが、そのキャラクターを移動、行動させるゲーム情報は、プレイヤーがコントローラーのレバー及び四個のボタンを操作していかなる入力信号をどのようなタイミングで送るかにより決定されるゲーム操作情報に基づいて、ゲームソフトウエアのプログラムから発せられる。

原告は、本件ゲーム機及び専用のゲームソフトウエアである本件ゲームソフトウエアの双方を開発、設計し、双方の内容及び機能を熟知しているメリットを最大限生かし、コントローラーの機能を視野に入れて本件ゲームソフトウエアを開発、設計している。すなわち、原告は、本件ゲーム機のコントローラーとしては原告製品が使用されることを前提にして、テレビゲームの内容ないし難度を設定し、各ユーザーが最適のテレビゲームを楽しめるよう調整して開発、設計しているのである。こうしたテレビゲームの内容及び難度は、本件ゲームソフトウエアの開発設計者である原告の思想及び感情を表現したものに外ならない。

例えば、本件ゲームソフトウエアである「餓狼伝説シリーズ」や「龍虎の拳シリーズ」等には、キャラクターの移動、行動において「必殺技」「超必殺技」(原告は、「必殺技」はオープンにしているが、「超必殺技」は「裏技」としてオープンにしていない)と称する攻撃手段が組み込まれているが、これらの「必殺技」「超必殺技」は、コントローラー(原告製品)の特定のボタンを一定時間押し続けることによりオンが継続する状態になり、本件ゲーム機本体中のCPUの情報の中にパワー(ゲーム操作情報の一種)が蓄積された時に、原告製品のレバーとボタンの操作の組合せによりインプットされるゲーム情報に基づくものであり、このような攻撃手段の変化のあるゲーム情報は、テレビゲームのおもしろさを倍加させているのである。

2 ところが、被告製品にはレバー及び四個のボタンの外に「ターボスイッチ」が設置されているため、このターボスイッチをオンにすれば、四個のボタンのうちの一個のボタンを規則的に反復して押した場合と同様の動作をするので、プレイヤーは一個のボタンを繰り返して押す労力が省かれる。しかし、その反面、ボタンが反復して押され、オンとオフが繰り返される状態(ターボ状態)になっているので、一定時間ボタンが押し続けられオンが継続する状態になることがなく、本件ゲーム機本体に情報としてのパワーが蓄積されることがない。したがって、本来ならばレバーとボタンの操作の組合せにより本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定されたパワー時のゲーム情報に基づき繰り出されるはずの「必殺技」「超必殺技」の攻撃手段が、被告製品では繰り出されることがない。もちろん、ターボスイッチを使用すれば、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によりテレビゲームを楽しむというようなことは求むべくもない(甲三三参照)。

このように、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げ、あるいは人気ゲームソフトウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右する重要な要素に影響を与え、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、ユーザーをしてその連射機能用ボタンを操作させ、本件ゲームソフトウエアを上映させる行為(ユーザーは被告の手足又は道具であり、被告の上映行為と評価される)は、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度、ひいては本件ゲームソフトウエアに込められた原告の思想及び感情を被告が原告の意に反して改変し、同一性保持権を侵害する行為である。

【被告の主張】

本件ゲームソフトウエアについては同一性保持権は認められず、また、これが認められるとしても、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアやその上映による影像及び影像の動的変化を改変するものではないから、同一性保持権の侵害とはならない。なお、被告が本件ゲームソフトウエアの上映の主体でないことは、前記一【被告の主張】2(三)のとおりである。

1 著作物についての同一性保持権は著作者人格権の一つであって、著作者の思想、感情がより強く表現されるいわゆる文化財について認められるものであり、著作者の人格的利益を保護しようとするものである。これに対し、不断の進歩、改変が期待されるいわゆる産業財としてのプログラムには、著作者人格権を認める必然性はなく、適当でもない(著作権法二〇条二項三、四号参照)。

したがって、本件ゲームソフトウエアについて同一性保持権を認めるべきではない。原告は、コントローラーの機能を視野に入れて本件ゲームソフトウエアを開発、設計していると主張し、あたかもハードウエア自体も同一性保持権によって保護されると主張するかのようであるが、ハードウエアが著作権法によって保護されることはない。

2(一) 被告製品における連射機能は、原告主張のとおり、ゲーム操作用の四個のボタンのうち一個をプレイヤーが規則的に繰り返し押すことにより本件ゲーム機本体に規則的に同一の電気信号を入力する代わりに、連射ボタンを押してターボ状態にすることにより右操作を行ったのと同様の電気信号を本件ゲーム機本体に入力でき(前記一【原告の主張】2(二)(2) )、プレイヤーは一個のボタンを繰り返して押す労力が省かれる(二【原告の主張】2)というものにすぎない。プレイヤーが連射ボタンを押すのとゲーム操作用ボタンを押すのとでは、画像の動く速度に差が生じるが、その差のとおりに画像が動くのは、結局、本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定された情報の範囲で本件ゲームソフトウエアのプログラムに従って画像が動いているからである。換言すれば、本件ゲームソフトウエアは、コントローラーから送られる電気信号の時間的間隔が短縮されると、それに応じて画面上のキャラクター等の動きが速くなるようにプログラムが制作されているところ、連射ボタンを押せば、本件ゲーム機本体に送られる電気信号の時間的間隔が短縮されるので、それに対応して本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定された情報に従って画面上のキャラクター等が速く動くのである。

したがって、連射機能を使用したからといって、本件ゲームソフトウエアとかけ離れた結果が発生しているわけではなく、まさに原告の期待したとおりの結果が発生しているのであって、本件ゲームソフトウエアを改変したことにはならない。

被告が被告製品に連射機能を付加したのは、ゲームソフトメーカーが技能レベルの高い少数のユーザーの期待に応えて次第に高度な内容のゲームソフトウエアを供給するようになり、技能レベルの低い一般のユーザーはこのような高度な内容のゲームソフトウエアについていけなくなったため、技能レベルの低い一般のユーザーでも連射機能を使用することにより本来なら到底クリアーできないような難度の高いゲームを自分のレベルに合わせて楽しむことができるようにすることを狙ったものであって、ゲームソフトウエアの種類によって連射機能を使用した方が有利な場合とそうでない場合があり、これを使用するか否かはユーザーの選択に委ねられているものである。

(二) 原告は、被告製品の連射機能を使用することによって「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくすることが、本件ゲームソフトウエアを改変したことになる旨主張するが、「必殺技」「超必殺技」は、原告主張のようにコントローラーの特定のボタンを一定時間押し続けることによりオンが継続する状態になり、本件ゲーム機本体中のCPUの情報の中にパワーが蓄積されることによって可能となるように、本件ゲームソフトウエアのプログラムに規定されているものであるところ、連射機能はこれまた原告主張のとおりオンとオフが繰り返されるターボ状態を作り出すものであるから、連射機能を使用することによって「必殺技」「超必殺技」の攻撃手段を繰り出せなくなることは、単にプログラムの規定に従っているにすぎず、何ら本件ゲームソフトウエアのプログラムを改変しているものではない。

また、原告は、連射機能を使用することによって四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐ旨主張するが、これは、ハードウエアとしてのコントローラーの問題であって、原告主張の著作物たる本件ゲームソフトウエアについての同一性保持権とは関係がない。

しかも、連射機能は、これを使用するか否かはユーザーの選択に委ねられているのであるから、「必殺技」「超必殺技」を繰り出したいのであれば、また、原告主張の四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての面白さを味わいたいのであれば、連射機能のスイッチを押さなければよいのである。

三  争点3(本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか)について

【原告の主張】

本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当し、「餓狼伝説シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアが爆発的な人気を博して驚異的に売上げを伸ばし、これに随伴して本件ゲーム機もその売上げを伸ばしたことなどにより、平成四年一二月中にはテレビゲームのユーザー及び取引者の間で周知性を取得したところ、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出される各種影像とこれら影像の変化の態様は、原告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出されるものと同一であるから、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであり、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当するというべきである。

1 商品表示

(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「商品等表示」は、人の業務に係る商品又は営業について自他識別機能又は出所表示機能を果たすものであるから、同号に例示された氏名、商号、商標等だけでなく、要するに商品又は営業について自他を識別し、出所を表示するものであれば、商品等表示になりうる。

家庭用テレビゲーム及び業務用ビデオゲームにおいては、ゲームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映し出される影像によって展開されるゲームのおもしろさが、ゲーム機関係の商品の生命ないし核心をなしていることは、ゲーム業界における常識である。したがって、ユーザーは、一般に、商品名以上にテレビ(ビデオ)ゲームにおける各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様によって商品を識別しているという実態が存在する。

(二) 本件ゲーム機ないし原告製品についても、以下のとおり、本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、最も強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当するものである。

(1)  まず、本件ゲームソフトウエアの冒頭にも画面表示される「NEO・GEO」という商品名を付した本件ゲーム機は、家庭用でありながら業務用並みの最大容量三三〇メガのテレビゲームソフトウエアにも対応でき、画像及び音響の迫力とリアリティにおいて業務用と同等であるという、従来のテレビゲーム機にはない新規かつ画期的な能力及び特徴を有するものとして広くユーザーに知られているから、右「NEO・GEO」という商品名が自他商品識別機能及び出所表示機能を有していることは明らかである。

(2)  しかし、前記(一)のとおり、テレビゲームの生命ないし核心は、正にゲームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映し出される各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様にこそあるのであり、ゲームソフトウエアがあくまでも主であって、これを上映するためのハードウエアは従たる存在にすぎない。このことは、本件ゲームソフトウエアの売上高が大幅に伸びるとそれに随伴して上映機器としての本件ゲーム機の売上高も大幅に伸びるという密接な関連性が認められることから明らかであり、そのため、原告は本件ゲーム機関係の広告宣伝費の大半を「餓狼伝説シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアの広告宣伝に費やしており、ハードウエアである本件ゲーム機だけを単独で広告宣伝することはほとんどない。ユーザーも、「NEO・GEO」の一構成商品である「餓狼伝説シリーズ」等業務用並みの人気ゲームソフトウエアである本件ゲームソフトウエアを家庭で楽しみたいと思って、これらを上映できる唯一の機器として本件ゲーム機を購入するのである。

(3)  そして、原告によるテレビ、新聞、雑誌等を通じての本件ゲームソフトウエアの全国的な広告宣伝及び人気ゲームソフトウエアのテレビアニメ化とその全国放映等により、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、強い自他商品識別機能及び出所表示機能を取得するに至ったのであり、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一の機器であるとして、人気ゲームソフトウエアの強い自他識別機能及び出所表示機能と一体となって全国的に周知となったものである。

更に、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成されるものとして宣伝、販売されており、いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不可分一体の関係にあり、また、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様を上映できる唯一かつ不可欠の機器であり、しかも右の三つが相互補完的に使用されることから、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様及びその上映における右の三つの相互補完的な使用形態と遊戯方法が、本件ゲーム機の生命ともいうべき重要な構成要素であるということができ、本件ゲーム機本体に接続して使用する原告製品についても、かかる構成要素によってその個別性が識別され、原告の商品であることが表示されているのである。換言すれば、ユーザーは、本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三構成で成り立っているとの認識の下に、最も強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有する人気ゲームソフトウエアの影像を介して、原告製品はこれを本件ゲーム機本体に接続してその人気テレビゲームをする(影像と音声によるゲーム展開を楽しむ)ための機器としてもっぱら認識しているのである。

なお、本件ゲーム機に使用される本件ゲームソフトウエアは一種類だけではなく、「餓狼伝説」や「餓狼伝説2」等複数存在するが、ユーザー等の需要者は、右各人気ゲームソフトウエアが本件ゲーム機によってのみ遊戯できることを認識しているから、複数の人気ゲームソフトウエアの各種影像とその変化の態様がすべて本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示となるのであって、ゲームソフトウエアの影像が一種類であるか複数であるかは商品表示性の判断に何ら影響を及ぼさない。

(4)  被告は、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様によって識別され又は出所が表示されるのは、本件ゲームソフトウエアそのものにとどまる旨主張する。

しかし、本件ゲームソフトウエアの各種影像とその変化の態様は、本件ゲームソフトウエアのみでは映し出すことができず、本件ゲームソフトウエアのゲーム情報を読み取りテレビに出力するハードウエアが必要不可欠であり、このように本件ゲームソフトウエアとハードウエアが一体となって初めて各種影像とその変化の態様をテレビに映し出すことができるのであるから、本件ゲームソフトウエアの各種影像とその変化の態様は、本件ゲームソフトウエア自体だけではなく、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)を含むすべてについて原告の商品であることを表示するものということができる。

2 周知性

(一) 平成二年当時、任天堂の家庭用ファミコン等家庭用テレビゲーム機のゲームソフトウエアの容量は一般に数メガにすぎず、画像及び音響の迫力とリアリティは業務用ビデオゲーム機に及ぶべくもなかった。原告は、右の状況に着目し、ゲーム場でのビデオゲーム感覚を家庭でも楽しめることをコンセプトに、前記のとおり家庭用でありながら業務用並みの最大容量三三〇メガのゲームソフトウエアにも対応でき、画像及び音響の迫力とリアリティにおいて業務用と同等である本件ゲーム機を開発し、平成二年三月頃から日本全国及び海外で販売を開始した。本件ゲーム機は、その迫力とリアリティが従来の家庭用テレビゲーム機の常識を覆すものとして極めて新規かつ特殊なものであったため、業界の内外の注目を集め、原告も本件ゲーム機について継続的な宣伝広告を行った(甲二八ないし三二)。

(二) そして、原告が本件ゲーム機の高性能を十分に生かせるような「格闘技シリーズ」等、特にユーザーの爆発的な人気を得た「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアを発売するとともに、平成四年九月頃から本件ゲーム機も急激に売上げを伸ばし、国内販売のみで同年一〇月が約一〇〇〇個、一一月が約二三〇〇個、一二月が約四一〇〇個というように倍々の売上げを記録した(甲一)。本件ゲーム機の迫力とリアリティが従来の家庭用テレビゲームの様相を一変させるとの高い評価を業界の内外で受け、専門誌、一般誌、新聞等で盛んに取り上げられ、極めて好意的に紹介されるとともに(甲四の1ないし4、二三ないし二七)、原告自身も、より積極的にテレビ、雑誌により本件ゲーム機及び本件ゲームソフトウエアの宣伝活動を展開した。

こうして、本件ゲーム機は、「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」の爆発的人気と相まって更に売上げを伸ばし、平成五年三月には一万七六六〇個(売上額五億二三三二万七五三七円)、被告が被告製品を発売する直前である同年一〇月には二万三五〇九個(同六億九二七二万九六六四円)、一一月には二万三九三四個(同七億〇三八五万六一四〇円)、一二月には二万八〇四一個(同八億二四九六万八三九二円)という驚異的な売上げを記録した。

更に、人気ゲームソフトウエアの一つである「餓狼伝説2」の周知性は、警察及び検察庁という公的機関によっても承認されるところとなり(甲二三、二四、三七ないし三九)、一般新聞紙(甲二七、四〇ないし四二)においても端的に報道されている。

(三) 以上のとおり、遅くとも平成四年一二月中には、本件ゲームソフトウエアの影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲームソフトウエアの上映における本件ゲーム機との相互補完的な使用形態と遊戯方法及び「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示とともに、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示としてユーザー及び取引者の間で広く知られるに至った。

(四) なお、原告は、本件ゲームソフトウエアのうち数種をスーパーファミコン用等のゲームソフトウエアに移植することを許諾したが、それは、右のとおり影像とその変化が本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を確立した後に、その人気に着目した訴外タカラ等から要請を受け、相当な対価の支払を受けてそのテレビゲーム機用のゲームソフトウエアに「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳」「サムライスピリッツ」を移植することを許諾したものであり、その結果、スーパーファミコン等他社のテレビゲーム機によっても右「餓狼伝説シリーズ」等の上映が可能になったというにすぎないから、既に確立された本件ゲーム機ないし原告製品についての周知性は何ら損なわれるものではない。

3 混同を生じさせる行為

(一) 不正競争防止法二条一項一号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行為」とは、同一又は類似の商品表示を使用した結果、ある商品と周知商品表示を使用した商品との間で混同を生じさせる行為又は商品の出所の混同を生じさせる行為のことであり、商品の出所の混同については、出所が同一と思わしめる混同(狭義の混同)だけでなく、ある商品の出所と周知商品表示を使用した商品の出所との間に営業上の系列関係、取引関係その他両者間に何らかの関係が存すると思わしめる混同(広義の混同)が認められれば足りるのであり、ここにいう混同とは、現実に混同が生じている必要はなく混同のおそれがあることで足り、そして、この混同のおそれの判断についていえば、一般的に、原告と被告の商品が同じ種類のものであればあるほど、また、両者の商品表示の類似性が高ければ高いほど、更に、原告の商品表示が特徴的で周知性が高いほど混同のおそれは強くなるのである。

(二) 次の(1) ないし(10)のような事実によれば、被告が被告製品を販売する行為は、被告製品を原告の商品であるかのようにユーザー及び取引者に混同を生じさせるものであることが明らかである。

(1)  本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成されており、いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不可分一体の関係(相互補完的な使用形態)にある。

(2)  原告製品と被告製品は、単に原告の製造にかかる本件ゲーム機のコントローラーであるということで同種の機器であるというにとどまらず、本件ゲーム機本体に接続してのみ使用できるだけであり、他社製のゲーム機には使用できないという意味で用途が全く同一である。その意味で、被告製品は、本件ゲーム機本体がなければ何の役にも立たず、いうなれば対戦モード用としての原告製品の代わりに購入される代替品にすぎない。現に、ユーザー及び取引者は、被告製品を本件ゲーム機専用の商品として購入しあるいは取り扱っている。

(3)  被告製品は、原告製品の回路構成等の情報入力システムを盗用して製造されたものであり、連射機能部分を除けば、回路構成等の構造が原告製品と同一である。

(4)  原告製品と被告製品において、影像の動的変化を生じさせるためのゲーム操作用のレバー一個とボタン四個のそれぞれが持つ機能・役割及び配置は同一である。したがって、ユーザーは、被告製品の右レバー一個とボタン四個を原告製品と同様に操作することにより、原告製品によって生じる人気ゲームソフトウエアの影像の動的変化と全く同じ影像の動的変化を生じさせることができる。

(5)  テレビゲームにおいては、ゲームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映し出される影像によって展開されるゲームのおもしろさこそが生命であり、ユーザーは、一般に、商品名以上にその影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様によって、ゲームソフトウエアだけでなく、これを上映するためのハードウエアについても、その商品の個別性を識別している。

(6)  「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアは、家庭用でありながら画像及び音響の迫力とリアリティにおいて業務用のビデオゲームソフトウエアと同等であるという新規かつ画期的な特徴があり、また、テレビアニメ化され全国放映されるなどユーザーの間で広く知られている。

(7)  「餓狼伝説シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアが人気を得るのと連動して、本件ゲーム機の売上げが急増している。

(8)  被告製品を購入するユーザーは、本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機に加えて対戦モード用コントローラーとして購入した被告製品を、本件ゲーム機本体に接続して人気テレビゲームを行うのであって、すなわち、被告製品を、本件ゲーム機本体に接続して影像及び音声によって展開される右人気テレビゲームを楽しむための機器として認識している。

(9)  本件ゲーム機ないし原告製品については、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様及びその上映における本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの相互補完的な使用形態と遊戯方法が、最も強い周知性のある商品表示に当たるところ、被告製品を本件ゲーム機本体に接続して受像機に映し出される各種影像とこれら影像の変化の態様等は、右本件ゲーム機ないし原告製品のものと同一である。

(10) 「ファイティングスティックNEO」なる名称の被告製品は、もともと「ファイティングスティックNEO・GEO」という名称により、その出所が原告製品の出所と同一であるかのようにユーザー及び取引者に混同を生じさせることを前提とするものであったところ、現に、被告製品は販売店において「NEO・GEO」専用コーナーにおいて売られている。

4 「スペース・インベーダー事件判決」、「ワールド・インベーダー事件判決」との対比

(一) 東京地裁昭和五七年九月二七日判決・無体集一四巻三号五九三頁(以下「スペース・インベーダー事件判決」という)及び大阪地裁昭和五八年三月三〇日判決・判例タイムズ四九五号一九六頁(以下「ワールド・インベーダー事件判決」という)は、テレビ型ゲームマシンの受像機に映し出される「インベーダーを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様」はそれ自体商品の出所を表示することを目的とするものではないが、取引上第二次的に商品出所表示機能を備えるに至ったものであると認定した上で、各事件における原告商品と被告商品のそれぞれの商品名及び形状が明らかに異なるにもかかわらず、これを全く問題にすることなく、右「インベーダーを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様」が同一ないし基本的に同一であるとして、各事件における被告の行為を商品の混同を生じさせる行為であると認めたものである。

(二) 本件ゲーム機についても、右各判決の事案同様、「餓狼伝説シリーズ」等の人気ゲームソフトウエアの周知性故に本件ゲーム機によってのみ上映できるこれら本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が最も強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商品表示に該当するところ、前記3(二)(8) のとおり被告製品を購入するユーザーは被告製品を、本件ゲーム機本体に接続して影像及び音声によって展開される右人気テレビゲームを楽しむための機器として認識しているから、被告は、原告が時間、費用、労力を費やして築き上げた本件ゲーム機の商品表示の有する顧客吸引力を、原告製品の代替品にすぎない被告製品を製造、販売することによって一部横取りしているのであり、正に不正競争行為に当たることは明らかである。

(三) 本件事案とスペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決の事案との相違点は、右両事件においては、ソフトとハードが一体となって一個の機器となっているのに対し、本件事案においては、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成されている点のみである。

しかし、本件ゲーム機における本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーは機能的には不可分一体となっており、右のように三個の機器の構成としたのは、もっぱら家庭における遊戯上の便宜であるにすぎず、そのコントローラーの機能・役割は、ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーが一個の機器となっている業務用ビデオゲーム機におけるコントローラー部分と全く同一である。しかも、右(二)のとおり本件ゲーム機によってのみ上映できる本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が最も強い自他商品識別機能及び出所表示機能を有しており、かつ、ユーザーは、被告製品を、本件ゲーム機本体に接続して影像及び音声によって展開される人気テレビゲームを楽しむための機器として認識しているから、コントローラーがゲーム機本体及びゲームソフトウエアと物理的に一体となっているか否かは、本件ゲーム機のコントローラーについての自他商品識別ないし出所の表示に何ら影響を与えるものではない。

したがって、本件事案とスペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決の事案とは、不正競争防止法適用の観点からみる限り全く同一である。

5 「実用新案出願中」の表示

被告は、原告は原告製品について実用新案登録出願をしていないにもかかわらず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱に「実用新案出願中」なる文字を記載していると主張するが、原告は、本件ゲーム機に関していくつかの実用新案登録出願をしているのであり、それを本件ゲーム機を入れる包装箱に表示したにすぎない。

【被告の主張】

1 商品表示

(一) 原告は、家庭用テレビゲーム及び業務用ビデオゲームにおいては、ユーザーは受像機に映し出される影像によって商品を識別している旨主張するが、右影像によって識別され又は出所が表示されるのは、右影像がアウトプットされる源となっている商品としてのゲームソフトウエアにとどまるのである。原告が「ゲームのおもしろさがゲーム機関係の商品の生命ないし核心をなしている」という場合の「商品」も、やはりゲームソフトウエアを意味すると考えられる。原告が「ゲームソフトウエアがあくまでも主であって、これを上映するためのハードウエアは従たる存在にすぎない」と主張している(1(二)(2) )ことからも、原告がいかにゲームソフトウエアを重視し、ハードウエアを軽視しているかが理解できるとともに、ゲームソフトウエアの自他商品識別機能又は出所表示機能が定まればハードウエアの右各機能はこれに従属して必然的に定まるとの発想を原告が有していることが理解できるのである。

(二) 原告がいう「本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様」についても、これによって自他商品識別機能及び出所表示機能を取得しているのは、本件ゲームソフトウエアであって、これを上映するために使用する本件ゲーム機ではない。

原告は、本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一の機器が本件ゲーム機であるというだけで、本件ゲームソフトウエアについての右自他商品識別機能及び出所表示機能を本件ゲーム機、更には周辺機器たるコントローラー(原告製品)にまで及ぼそうとするが、論理必然的な帰結ではない(このことは、「NEO・GEO」という商品名についても同様である)。現在のところは本件ゲームソフトウエアを上映することのできるゲーム機本体としては本件ゲーム機本体しかないと仮定しても、そのうちに本件ゲームソフトウエアを上映できる他の機器が出現することは予想できるところであり、資本主義社会における自由競争市場においては、独占的な利潤を一社が単独で享受しうる状態は長く続くものではなく、やがて第三者の参入によって消滅していかざるをえないのであって、それが自由市場経済の鉄則であり、消費者にとっても利益となるのである。原告がただ一社で独占的な利益を享受できるような状態を自然なものと考えているとすれば、そこに原告の考え方の基本的な誤りがあるといわざるをえない。現に、本件ゲームソフトウエアの一部(人気ゲームソフトウエア)は、スーパーファミコン等他社のゲーム機でも上映することができるのである。

本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成されるものとして宣伝、販売されているとしても、それは単に原告の都合にすぎない。原告は、右構成のうちの一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさないという不可分一体の関係にあるとも主張するが、「遊戯上」、「不可分一体」の意味が不明確である。遊戯上全く意味をなさないという観点からいえば、受像機たるテレビこそまさにそうである。原告がいくら右の三つが不可分一体であると強調しても、ユーザーは、不可分一体とは思わないからこそ、被告製品を購入して、本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機本体と一緒に使用してゲームを楽しんでいるのである。

更に、原告は、本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つの相互補完的な使用形態と遊戯方法も本件ゲーム機の生命ともいうべき重要な構成要素であると主張するが、意味不明である。

2 周知性

本件ゲームソフトウエアの影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲームソフトウエアの上映における本件ゲーム機との相互補完的な使用形態と遊戯方法及び「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示とともにユーザー及び取引者の間で広く知られるに至ったとの主張は争う。

原告のいう相互補完的な使用形態と遊戯方法の意味は明確でないが、本件ゲームソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントローラーを使用してテレビゲームを楽しむという意味であるとすれば、かかるゲームの楽しみ方は他のメーカーのテレビゲーム機においても同じである。本件ゲームソフトウエアの周知性とハードウエアとしてのコントローラーの周知性とは全く別のものである。

3 混同を生じさせる行為

(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」とは、現実に混同が生じている必要はなく混同のおそれがあることで足りるとしても、単に抽象的な危険があるだけでは足りず、具体的危険がなければならない。そして、混同の有無は、当該表示の方法、態様等諸般の事情に照らし、取引界の実情及び一般消費者の判断を基準にして具体的に決すべきであり、その判断に当たって基準となる注意力は、その商品の取引の実情の下における平均的な需要者又は取引者の注意力であるとされている。

(二) 原告は、被告製品の販売が原告の商品であるかのように混同を生じさせる事情として【原告の主張】3(二)(1) ないし(10)のとおり主張するが、以下のとおり、これらはいずれも混同を生じさせる根拠となるものではない。

(1)  本件ゲーム機が本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーの三つで構成されていることについては、原告の都合によって右の三つがたまたまセットとして販売されているだけであって、実際上もコントローラーは別売りされており、不可分一体の関係にあるとはいえない。コントローラー(原告製品)がなくても被告製品があればゲームを楽しむことができるのであるから、「いずれか一つでも欠くと遊戯上全く意味をなさない」ということはない。

(2)  被告製品が原告製品の代替品にすぎないとしても、代替品の製造販売自体は本来自由であり、何ら問題ではない。

(3)  被告製品は、連射機能という原告製品にはない機能を有しているから、複製品であるということはできない(前記一【被告の主張】2(二)(1) )。

(4)  被告製品におけるゲーム操作用のレバー一個とボタン四個の機能・役割が原告製品におけるそれと同一であることは、被告製品が原告製品の代替品としての機能を果たすものである以上当然のことである。配置は、同一とはいえない。なお、原告製品の形態自体が出所表示の機能を備えるに至ったとはいえない。

(5)  原告は、ユーザーはゲームソフトウエアのプログラムに従って受像機に映し出される影像とその変化の態様によって、ゲームソフトウエアだけでなくこれを上映するためのハードウエアについてもその商品の個別性を識別している旨主張するが、影像とその変化の態様により個別性を認識されるのは商品としてのゲームソフトウエアであって、これによって何故、ハードウエアについてもその個別性が認識されるのか明確ではない。ハードウエアは、あくまでもハードウエアによってその個別性が認識されるというのが自然なのである。

(6)  原告の主張するところは、本件ゲームソフトウエアに関するものである。

(7)  右(6) と同様である。

(8)  原告の主張するところはそのとおりである。

(9)  原告の主張するところは不明確で理解できない。

(10) 「ファイティングスティック」というのは、被告の商品として周辺機器業界では周知のものであり、「ファイティングスティック」という商標があればそれが被告の商品であることがユーザー及び取引者に容易に分かることであるから、「混同を生じさせることを前提とするものであった」というのは、全くの誤りである。被告製品をどのコーナーで販売するかは販売店が決めることであって、被告がとやかく言われる問題ではない。また、仮に「NEO・GEO」専用コーナーで売られているとしても、被告製品が原告製品の代替品である以上当然のことである。

4 スペース・インベーダー事件判決、ワールド・インベーダー事件判決との対比

両判決の事案は、ビデオゲーム機メーカー同士の争いであり、両社ともにゲーム機本体及びそれに使用するゲームソフトウエアに基づく影像を保有しているのであり、かかるゲームソフトウエアを各受像機に映し出して表現された影像とその変化の態様の同一性を問題にしているのである。これに対し、本件は、影像の同一性について争うべき複数のゲームソフトウエア及びこれを制作した複数のメーカーは存在せず、ただ、本件ゲーム機の周辺機器であるコントローラーを製造するメーカーが存在するにすぎないから、事案を異にするものである。

5 「実用新案出願中」の表示

原告は、コントローラー(原告製品)について実用新案登録出願をしていないにもかかわらず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱(乙一〇の3)に、「実用新案出願中」なる文字を記載している。かかる虚偽の表示をして原告製品を販売している原告には、被告製品の販売行為に対して不正競争防止法による保護を主張して差止めや損害賠償を求める資格のないことが明らかである。

四  争点4(本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、原告の商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか)について

【原告の主張】

原告が本件ゲーム機及び原告製品に使用している「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、遅くとも平成四年一二月中には原告の製造、販売する本件ゲーム機及び原告製品が原告の商品であることを示す商品表示としてテレビゲームのユーザー及び取引者の間で広く知られるに至ったところ、被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものである。

1 「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示を使用した本件ゲーム機は、前記三【原告の主張】2(一)ないし(三)記載のとおり、画像及び音響の迫力とリアリティが従来の家庭用テレビゲーム機の常識を覆すものとして極めて新規かつ特殊なものであったため、業界の内外の注目を集め、原告も本件ゲーム機について継続的な宣伝広告を行い、「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等の本件ゲームソフトウエアが爆発的人気を得たことと相まって更に売上げを伸ばし、専門誌、一般誌、新聞等で盛んに取り上げられるなどした結果、右「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、遅くとも平成四年一二月中には、本件ゲーム機ないし原告製品(及び本件ゲームソフトウエア)が原告の商品であることを示す商品表示として、ユーザー及び取引者の間で広く知られるに至った(甲二七、四一、四二の各新聞記事からも明らかである)。

被告は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」の知名度は、せいぜい本件ゲーム機本体の商品名としての知名度にとどまる旨主張するが、本件ゲーム機の専用コントローラー(原告製品)自体の名称も「NEO・GEO」なのである(甲六、検甲三)。

2 被告は、被告製品に「ファイティングスティックNEO」及び「ファイティングスティックNEOII」という表示を使用していることにより、ユーザー及び取引者に原告の商品であるかのように混同を生じさせるものである。

被告は、被告製品の発売に先立つ平成五年一〇月二一日、原告に対し、販売価格の一・五%のロイヤリティを支払うとの条件で、「NEO・GEO」の名称を使用して本件ゲーム機専用のコントローラーを製造、販売することの許諾を求めてきたのであり、右コントローラーの名称を「ファイティングスティックNEO・GEO」とする予定とのことであったが、原告がこれを拒絶したところ、被告は、右名称から「GEO」だけを外した「ファイティングスティックNEO」という表示を使用し、原告の同年一二月一三日到達の書面(甲五二の1)による警告を無視して被告製品(一)の発売を強行したものである。このことは、被告が当初から被告製品(一)に一般名詞の接頭語としての「NEO」なる名称を使用しようとしたのではなく、原告の許諾が得られなかったために「NEO・GEO」から「GEO」を外したにすぎず、被告が類似の名称を用いる意思を有していたことを示すものであり、もともと「ファイティングスティックNEO・GEO」という名称によりその出所が原告製品の出所と同一であるかのようにユーザー及び取引者に混同を生じさせることを前提とするものであったことが明らかである。

被告製品は、現に、販売店において「NEO・GEO」専用コーナーにおいて売られており、また、被告が任天堂やセガのコントローラーを製造、販売するについては、一般にゲーム機メーカーにロイヤリティを支払うという取引関係にある事実が存在するから、「ファイティングスティックNEO」及び「ファイティングスティックNEOII」という表示の使用により、ユーザー及び取引者に少なくともその出所が原告との間の取引上の緊密な活動に基づくものとの混同を生じさせるものであることは明らかである。

【被告の主張】

1 「ネオジオ」又は「NEO・GEO」が本件ゲーム機の商品名であるとしても、その知名度は、せいぜい本件ゲーム機本体の商品名としての知名度にとどまるものと思われる。「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品名によって、コントローラーについてまで原告の独占的権利を認めるべき理由はない。

2 テレビゲーム機本体に適合する周辺機器を製造、販売することは、他人の工業所有権により禁止される場合を除いて本来自由であり、したがって、本件ゲーム機本体に適合する周辺機器であるコントローラーを製造、販売することも、工業所有権により禁止されるものは何もないので、自由であることが原則である。この場合、右周辺機器には当然のことながらその対象となるゲーム機本体が存在するのであり、右周辺機器には、その対象となりこれと適合するゲーム機本体が明確に表示されなければ、消費者はその周辺機器がどのゲーム機本体に適合するか分からないから、特定のゲーム機本体の使用に適合することを示す表示、すなわち用途表示が不可欠である。他人の登録商標を使用する場合であっても、登録商標を自己の商品の商標として使用するのではなく、当該商品の使用マニュアルやパッケージ等に「○○○○用」(○○○○は登録商標)というように用途表示として記載するのであれば、商標法によって禁止されることはなく、また、少なくともゲーム機業界においては不正競争防止法に違反することもないと解されている。仮に用途表示を不正競争防止法によって禁止することになれば、右のとおり本来周辺機器の製造販売は自由であるにもかかわらず、用途表示のない周辺機器は実際上販売できないから、事実上右周辺機器の製造販売を禁止するのと同様の効果を生じることとなり、右周辺機器の製造販売を自由にすることによって技術革新を促進し併せて消費者にその利益を享受させようとする不正競争防止法の趣旨にも反することになる。まして、他人の登録商標そのものではなく、その一部又は略称を用途表示として使用する場合は、なおさら許容されることになる。

被告が使用している「ファイティングスティックNEO」又は「ファイティングスティックNEOII」という表示は、被告製品が本件ゲーム機本体に適合するものであることを示す用途表示であって、被告製品の商標として使用しているものではなく、かつ、「NEO・GEO」そのものではなく、その一部であるから、かかる表示を付して被告製品を販売することは、何ら不正競争防止法二条一項一号の不正競争に該当するものではない。

平成五年一〇月二一日における被告の原告に対する申込みは、原告に対して「NEO・GEO」なるロゴを被告製品(一)につけて販売させてほしい旨申し込んだものにすぎない。

3 しかも、「ファイティングスティックNEO」又は「ファイティングスティックNEOII」という表示は、「NEO・GEO」という表示と類似せず、混同を生じない。

(一) 被告製品(一)及びそのパッケージにおいては、「ファイティングスティックNEO」又は「Fighting Stick NEO」のうち、「ファイティングスティック」又は「Fighting Stick」の部分と「NEO」の部分は別の行に分けて二段に記載されており、字体及び文字の大きさも異なっている。これを客観的に観察すれば、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」と「NEO」とは同価値ではなく、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」が主であり、かつ、被告製品の基本商標であって、「NEO」は用途表示としての機能を持たせつつ付加されたものであるということができる。文字数や音節数を比べても、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」の方が「NEO」よりも多いので、被告製品を識別するためには前者が要部として重視されることが理解できる。

しかして、右要部たる「ファイティングスティック(Fighting Stick)」は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」とは外観、称呼、観念いずれからみても類似しないことが明らかである。

(二) そもそも「NEO」は、単に「新」という意味の接頭辞にすぎず、それ自体から直ちに「NEO・GEO」を想起させるものではなく、「NEO」を含む登録商標は、被告の知りえた限りでも原告・被告の属する業界の商標分類第二四類だけでも二〇件に及ぶのであるから、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示から「NEO」なる部分を特に取り出し、その前についている「ファイティングスティック(Fighting Stick)」という部分を故意に脱落させて「ネオジオ」又は「NEO・GEO」と混同を生じさせるとするのは全く根拠がない。

(三) 「ファイティングスティック」は、被告が平成四年七月三一日にスーパーファミコンに対応するコントローラーを「ファイティングスティック」の名称で発売して以来、「ファイティングスティックPC」(平成五年六月一六日)、「ファイティングスティックマルチ」(平成五年九月三〇日)、「ファイティングスティックNEO」(平成五年一二月一七日)、「ファイティングスティックNEOII」(平成六年一二月二八日)、「ファイティングスティックDUAL」(平成六年一一月一九日)、「ファイティングスティックPS」(平成六年一二月一〇日)、「ファイティングスティックSS」(平成六年一二月二二日)、「ファイティングスティックDUAL PLUS」(平成七年二月九日)というように「ファイティングスティック」シリーズとして販売し続けてきたものであって、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」という商標は、被告の商品表示としてゲーム機業界及び顧客層の間で周知であるから、原告の商品であるとの混同は生じない。

(四) 更に、被告製品は、原告製品と具体的に次の点で異なるものであり、実際、ユーザーは、ユーザーの間でそのコントローラーが品質、操作性、デザインなどの点で優秀であることが周知の事実である被告の製造、販売したコントローラーであると認識して被告製品を購入するのであって、被告製品を原告の製造、販売したコントローラーであると誤認混同して購入するわけではない。

(1)  製品自体の相違(乙七)

外観について、被告製品は、スティック部分に凹凸がなく、セレクトボタン及びスタートボタンが赤く、トリガーボタンがグレーであり、表面に「HORI」及び「Fighting Stick NEO」の表示があるのに対し、原告製品は、スティック部分に凹部があり、セレクトボタン及びスタートボタン並びにトリガーボタンがいずれもダークグレーであり、表面に「SNK」及び「NEO・GEO」の表示がある。

重さは、被告製品が約一三〇〇gであるのに対し、原告製品は約七五〇gであり、大きさも、被告製品の方が一回り大きい。この点は、対戦用コントローラーとしては決定的な相違点であり、操作の安定性という観点から、原告製品より被告製品の方が優れていることはユーザーには周知の事実である。

被告製品には連射機能があるのに対し、原告製品にはない。

(2)  パッケージの相違

被告製品のパッケージは、ゲーム機器においてはパッケージが販売戦略上重要であることをよく理解して作成されていて優れており、パッケージの重要性について考慮が払われていない貧弱なデザインの原告製品のパッケージとは、記載された文字、色及びデザイン等において顕著な相違があり、一見して見分けられる。一般にゲーム機器の販売店では、周辺機器は各メーカーの商品が別段の規則性もなく上段又は下段にまとめて置かれているのが実情であるが、それでも、被告製品と原告製品とは、右のとおりパッケージが全く異なるため、混同されることはない。

五  争点5(右1ないし4のいずれかにより被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 被告は、被告製品(一)の販売に先立って、原告から前記平成五年一二月一三日到達の警告書により被告製品(一)の販売の中止及び廃棄を求められたにもかかわらず、その警告を無視して被告製品(一)の販売を強行し、原告の営業上の利益を侵害したものであるから、被告には被告製品の販売につき少なくとも過失がある。

2(一) 被告は、平成五年一二月、被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合計二万個販売し、一個当たり二〇三〇円の利益を得た(このことは、反訴に関する後記七【被告の主張】1(一)において被告自ら主張するところである)。

したがって、被告が右の被告製品(一)の販売によって得た利益は合計四〇六〇万円である。

(二)(1)  被告は、平成六年三月、被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合計二万個追加販売した。

被告は、右追加販売数は九九〇〇個である旨主張するが、右(一)の第一次製造販売数が二万個であったこと、被告は、反訴に関する後記七【被告の主張】1(一)において、被告の生産計画によれば被告は被告製品(一)二万個の製造を一〇日間で完了し、その二万個の販売を次の一五日間で完了する予定であったと主張していることから、被告による被告製品(一)の製造販売は二万個を一回当たりの単位としていたものと認められるから、右追加販売数も二万個であった蓋然性が高い。

また、被告は、平成八年一月二二日、裁判所から、損害の計算をするため必要な書類として総勘定元帳、売掛台帳、買掛台帳、売上元帳、仕入元帳及び売上伝票を提出するよう命じられたのに、正当な理由なく応じなかったから、文書不提出による効果として、民訴法三一六条の適用により、原告の証明主題、すなわち被告が被告製品(一)を二万個販売したことによって四〇六〇万円の利益を得たという事実が真実であると認められるというべきである。

仮に右主張が認められないとしても、原告は、裁判所が提出を命じた総勘定元帳、売掛台帳、売上元帳及び売上伝票には被告製品(一)の販売数が二万個である旨の記載があると主張するものであるところ、当該文書の記載内容に関する右原告の主張が民訴法三一六条によって真実と認められるべきである。

(2)  そして、被告は、被告製品(一)の一個当たりの利益が二〇三〇円であることを自認しているから、被告が被告製品(一)を二万個追加販売したことによって得た利益は合計四〇六〇万円である。

(三) 被告は、平成六年一二月、被告製品(一)と全く同一の回路構成であり、わずかにボディやボタンの色を変えただけの被告製品(二)を合計二万四三〇〇個製造、販売した。

被告製品(二)は、右のとおり実質的に被告製品(一)と同一のコントローラーであり、小売価格も六八〇〇円と同一であるから、一個当たりの利益の額も被告製品(一)と同額である蓋然性が高い。原告は、この点に関し、裁判所が提出を命じた前記各文書において、被告製品(二)の一個当たりの利益の額が二〇三〇円であること、及び(これが被告製品(一)の利益額と同額であることを裏付ける)仕入材料等の製造コスト及び製品出荷価格等に関して被告製品(一)と被告製品(二)との間で差異が認められない記載があると主張するものであるところ、かかる原告の主張自体が民訴法三一六条によって真実と認められるべきである。

したがって、被告製品(二)の一個当たりの利益も二〇三〇円であり、被告が被告製品(二)を二万四三〇〇個販売したことによって得た利益は合計四九三二万九〇〇〇円である。

(四) 以上によれば、被告は、被告製品(一)及び被告製品(二)の製造販売により右(一)ないし(三)の合計一億三〇五二万九〇〇〇円の利益を得たものであり、これは原告が被告の行為によって被った損害の額と推定されるが、原告は、本訴においてそのうちの一億二一八〇万円を請求するものである。

【被告の主張】

1 被告は、被告製品(一)を平成五年一二月一七日に一万九九〇〇個、平成六年三月八日に九九〇〇個、被告製品(二)を平成六年一二月二八日に二万四三〇〇個それぞれ販売した。その小売価格は、いずれも六八〇〇円である。

2 原告の損害についてのその余の主張は、すべて争う。

六  争点6(原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として不法行為を構成し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか)について

【被告の主張】

1 原告は、平成五年一二月二〇日、被告製品販売の差止め等及び損害賠償を求める本訴請求にかかる訴えを提起するとともにこれを本案とする仮処分を申し立てたが、その提起・維持は、前記一ないし四における【被告の主張】のとおり何ら法律上の根拠がないのに、原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を構成するから、原告は、民法七〇九条に基づき被告に対しこれによって生じた損害を賠償すべき責任がある。

(一) 原告は、ソフトウエアとハードウエア、文化財と産業財との差異を全く認識せず、また、本件事案とパックマン事件判決等の事案とではその基礎事実が異なるにもかかわらず、目に付いた裁判例を強引に本件事案に当てはめようとし、更に、論理の前提となるコントローラーの定義についてさえ杜撰なものを設定したため、不合理な点や矛盾点が噴出したものである。

連射機能についていえば、テレビゲーム機用のコントローラーに連射機能やスロー機能を付加することは、業界及びユーザーの間では常識化し許容されていたのであるから、このような取引社会の通念と逆行するような主張、行動をあえてとる以上、十分な理論的根拠を持ち、それを裏付ける証拠資料を持たなければ軽々しく本訴請求にかかる訴え等に及ぶというような行動はとれないはずである。

しかるに、原告は、十分な理論的根拠も証拠資料も持つことなく、慎重な検討を経ないで本訴請求にかかる訴え等の提起・申立てに及んだものであって、不当訴訟というべきである。

(二) 仮に本訴請求にかかる訴えの提起・申立ての当時はそのことに気付かなかったとしても、裁判所から四回に及ぶ文書による求釈明を受けた後も原告は本訴請求にかかる訴え等を維持し続けたのであるから、その維持につき過失がある。

(三) 更に、原告は、平成六年四月四日付訴えの変更申立書により本訴請求の請求の趣旨を拡張したが、その追加した請求原因は、被告が同年三月八日に被告製品(一)を二万個追加販売したというものであり、相変わらず全く事実調査をしないまま、被告が被告製品(一)を二万個も追加販売したと過大な主張をしているから、本訴請求にかかる訴えは、なおさら不当訴訟であることが明らかである。

2 原告は、平成六年三月一五日の第二回口頭弁論期日で陳述した同月一四日付第一準備書面において、被告は「原告製品のシステムを盗用」した、というように「盗用」という語を前後一一回にわたって使用している(前記一【原告の主張】2(二)参照)。

原告の主張する「システム」が著作権法により保護されるべき創作性のないものであることは前記のとおりであるが、それはさておき、「盗用」という語の意味は「盗んで用いること」であると解され、「盗む」とは、「横領」と異なり、相手方の占有を侵奪することを意味するから、原告は、被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したことになる。しかるに、被告は、原告の占有下にある「システム」を侵奪し、これを被告の占有下においたことはないから、原告の主張は事実無根であり、被告に対する名誉毀損になることは明らかである。

仮に、「盗用」という語に占有侵奪という意味がないとしても、「盗用」という語は、「盗聴」あるいは「盗作」等と同じように反社会的で否定的価値判断を含んだ語であることは否定できないから、かかる反社会的な行為を被告が行ったということを公然と摘示することは、被告の名誉を毀損する行為であるというべきである。

【原告の主張】

被告の主張は争う。

原告による本訴請求にかかる訴え等の提起・維持には、何ら違法性及び故意・過失がなく、被告主張の損害との因果関係もない。

七  争点7(右6により原告が損害賠償義務を負うとした場合に、被告に対し賠償すべき損害の額)について

【被告の主張】

被告は、原告の本訴請求にかかる訴え等の提起・維持及び名誉毀損の不法行為により合計一億二七四八万二三二〇円の損害を被った。

1 本訴請求にかかる訴え等の提起・維持による分 一億一七六三万七三二〇円

(一) 被告は、平成五年一二月一七日に被告製品(一)二万個の販売を開始し、更に、同年一二月末から翌平成六年一月初旬にかけて被告製品(一)を一万個販売することを予定し、既に部品の調達を完了し、いつでもこれを完成品に仕上げて販売できる体勢を整えていた。右平成五年一二月一七日販売開始の被告製品(一)の二万個は一二月中にその販売を完了し、問屋からの追加注文が届いたりしていたから、本訴請求にかかる訴え等の提起がなかったならば、被告は、右一万個分の部品を被告製品(一)(完成品)に仕上げ、その販売を完了していたことが明らかである。被告の生産計画によれば、被告は、被告製品(一)二万個の製造を一〇日間で完了し、その二万個の販売を次の一五日間で完了する予定であったから、平成五年一二月末から平成六年二月八日までの間を概算して四二日とすると、被告製品(一)を五万六〇〇〇個販売することが可能であったことになる。

被告製品(一)の一個当たりのメーカー出荷価格は三九四四円であり、そのうち被告が得られる利益は二〇三〇円であるから、被告が右期間中に被告製品(一)を五万六〇〇〇個販売していたとすれば、被告は、これにより一億一三六八万円の純利益が得られたはずである。

しかるに、原告が平成五年一二月二〇日、本訴請求にかかる訴え等を提起、申し立て、その頃訴状及び仮処分申立書の副本が被告に送達されたため、被告は、被告製品(一)の製造販売を停止せざるをえなくなり、右得られるはずであった利益を喪失し、これと同額の損害を被った。

(二) 被告が本訴請求にかかる訴え等に応訴するについて支出した費用として、次の合計三九五万七三二〇円を支出し、同額の損害を被った。

(1)  日弁連報酬規定により当初の本訴請求額六八〇〇万円を基準にして算定した着手金の標準額三五六万五〇〇〇円

(2)  交通費三九万二三二〇円(東京・大阪間の新幹線グリーン料金四往復分三万六〇六〇円×四=一四万四二四〇円〔訴訟代理人分〕及び横浜・大阪間の新幹線グリーン料金延べ七人分三万五四四〇円×七=二四万八〇八〇円〔被告分〕)

2 前記六【被告の主張】2の原告の名誉毀損による分 五〇〇万円

3 反訴請求のための弁護士費用 四八四万五〇〇〇円(右1及び2の合計額は一億二二六三万七三二〇円であるところ、日弁連報酬規定により一億円を基準にして算定した着手金の標準額)

第四争点に対する判断

一  争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害するものであるか)について

1  まず、本件ゲームソフトウエアが映画の著作物に該当するか否かについて検討する。

前記第二(事案の概要)の三(基礎となる事実)1によれば、本件ゲームソフトウエアは、ゲームカセット内に収納されていて、プログラムメモリーに、各テレビゲームのキャラクターや背景の形・色の影像情報、効果音やBGMの楽器音の音声情報、及びキャラクターをどの場面でどのように動かし、影像に合わせてどのような音楽を発生させるかを指示し、またゲームプレイヤーのコントローラー操作に対応してゲームストーリーを変化させる多数多種の命令情報を記憶しており、右影像情報、音声情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に指示するものであり、プレイヤーがコントローラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報(電気信号)及びそのゲーム操作情報に対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報(電気信号)を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、ビデオ回路を通じて影像信号を、音声回路を通じて音声信号を受像機に出力し、もって受像機の画面上に映し出される影像を変化させ、併せてスピーカーから音声を発生させるというものである。

しかして、著作権法にいう映画の著作物(一〇条一項七号)は、本来の意味における「映画」だけでなく、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(同法二条三項)を含むところ、本件ゲームソフトウエアと本件ゲーム機を使用することにより音声を伴って受像機に映し出される影像は、本来の意味における「映画」ではないが、音声を伴って影像が動きをもって見えるという視聴覚的効果を有しており、また、右影像の動的変化及び音声は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定されているところによるのであり、これから離れて別の影像や音声を出力することは不可能であるから、ゲームカセット内のプログラムメモリー内に電気信号として取り出せる形で固定されているというべきである。このように本件ゲームソフトウエアにより受像機に映し出される影像の内容についていえば、たとえば「餓狼伝説」は、前記第二の三1(三)によれば、いわゆる格闘ゲームの一種であり、マーシャルアーツ(格闘技の一流派)の達人「テリー・ボガード」ら三人の主人公キャラクター及び対戦相手キャラクターを設定し、右主人公キャラクターが史上最強の武闘会「キング・オブ・ファイター」に出場し、「必殺技」及び「超必殺技」を駆使して対戦相手キャラクターである七人の格闘家との格闘を勝ち抜き、最後に仇敵「ギース・ハワード」との宿命の戦いに挑むというストーリー展開のものであって、平成四年一二月及び平成五年七月にはテレビアニメ化されて全国放映されたというのであるから、著作者の知的文化的精神活動の所産として産み出されたものというべきであり、弁論の全趣旨によれば、その他の本件ゲームソフトウエアの内容も同様に著作者の知的文化的精神活動の所産として産み出されたものと認められる。

したがって、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、そのそれぞれがいずれも映画の著作物として認められるための前記法律上の要件を満たしており、映画の著作物に該当するというべきである。

そして、証拠(甲六一、検甲五の2・5・8)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトウエアは、原告の発意に基づきその従業員が職務上作成したものであって、原告の著作名義の下に公表したものであることが認められるから(著作権法一五条)、原告がその著作者であるというべきである。したがって、原告は、映画の著作物の著作者として、その著作物を公に上映する権利を専有することが明らかである(同法二六条一項)。

2  原告は、被告は右のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラーとして、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せしめているのであるから、ユーザーではなく被告が上映の主体すなわち上映権の侵害行為者である旨主張するところ、右原告の主張は、被告において被告製品を製造、販売する行為がすなわち映画の著作物である本件ゲームソフトウエアを上映する行為に当たるとの趣旨であると解されるので、以下この点について検討する。

(一) 本件ゲームソフトウエアの上映に際しコントローラーの果たす役割についてみるに、前記1の事実及び甲第六一号証によれば、本件ゲームソフトウエアの各プログラムをプログラムメモリー内に固定したゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込みそのスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレーション画像が規則的に繰り返し映し出されるが、コントローラーを本件ゲーム機本体にある端末と電気的に接続し、そのスタートボタンを押すとゲームが開始し、レバー、ボタンを操作すると本件ゲーム機本体にゲーム操作情報が電気信号として入力され、右ゲーム操作情報及びこれに対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、受像機の画面上に影像の動的変化として出力する、というものである。

右のとおり、コントローラーは、そのスタートボタンを押すことによりゲームを開始させ、レバー、ボタンを操作することにより、本体のCPUを通じて本件ゲームソフトウエアからキャラクターに特定の動作をさせる等のゲーム情報を出させる機能を有するゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に電気信号として入力するものであって、受像機の画面上に映し出される影像の動的変化ないしゲームの展開を決定づけるものであり、その意味では、本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠の機器ということができる(但し、前記のとおりデモンストレーション画像の上映のためにはコントローラーは不要であるが、デモンストレーション画像の上映だけではテレビゲームとしての意味がない)。

(二) このように、コントローラーは、本件ゲーム機本体を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠な機器といえるのであるが、問題は、このようなコントローラーである被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、それ自体映画の著作物としての本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視できるか否かである。

(1)  被告製品を製造、販売する被告の行為は、行為自体を自然的に観察する限り、あくまでも被告製品を製造、販売する行為であって、その行為の性質上、直ちに本件ゲームソフトウエアの上映行為といえないことは明らかである。

そして、甲第六一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲーム機は家庭用テレビゲーム機であって、ユーザーが、本体とコントローラー(原告製品と同じもの)がセットとして販売されている本件ゲーム機を購入し、これとは別に本件ゲームソフトウエアのうちの一種類又は数種類を購入してこれらを自宅等に持ち帰り、自ら本件ゲーム機本体をテレビに接続した上その端末にコントローラーを接続し、本件ゲーム機本体に本件ゲームソフトウエア(ゲームカセット)を差し込み、本体のスイッチを押すなどの操作をして初めて、テレビの画面上に影像が映し出されるものであること、被告製品は、主に右コントローラーに加えて対戦モード用に(ときとして右コントローラーが壊れた場合の補充用に)用意されている原告製品の代替品として販売され、購入されるものであり、本件ゲームソフトウエアを上映するための手順、作業も右と同様であって、すべてユーザーによってなされるものであることが認められる。すなわち、上映行為それ自体はもちろん、本件ゲーム機本体をテレビに接続した上その端末に被告製品を接続し、本件ゲーム機本体に本件ゲームソフトウエア(ゲームカセット)を差し込むというような上映のための準備作業もすべてユーザーによって行われ、その過程に被告の行為が介在する余地のないことが認められる。したがって、本件ゲームソフトウエアの上映については、被告が直接これに関与することはなく、形式上も実質上もユーザーによって行われているものとみるほかはない。

(2)  原告は、被告は被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物たる本件ゲームソフトウエアを上映せしめている旨主張するのであるが、被告がユーザーを手足ないし道具として利用して本件ゲームソフトウエアを上映せしめているものとして、被告自ら本件ゲームソフトウエアを上映しているのと同視できるためには、単に被告製品を購入したユーザーがその購入目的からして必然的に被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するに至ることが明らかであるというだけでは足りず、被告において、被告製品をユーザーに販売した後も、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて何らかの管理・支配を及ぼしていること、及び被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることが必要であると解するのが相当である。

しかして、被告製品を購入したユーザーは、これを被告の管理・支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって被告製品を本件ゲーム機本体に接続して本件ゲームソフトウエアを上映するのであって、本件全証拠によるも、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて被告が何らかの管理・支配を及ぼしていることは認められない。

また、被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることも、これを認めるに足りる証拠はない。原告は、被告製品を購入する対価は、観衆たるユーザーが本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する(から、「営利を目的としない」上映には当たらない)旨主張するが、被告製品の価格は本件ゲームソフトウエアの上映の対価そのものである、あるいはこれが被告製品の価格のうちに含まれていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、ユーザーが被告製品を購入する時点では、既に購入済みの本件ゲームソフトウエアがある場合の当該ゲームソフトウエアを除き、本件ゲームソフトウエアのうちどのゲームソフトウエアを購入し、これを上映するかは具体的に確定しておらず、将来原告によって販売されることあるべき本件ゲームソフトウエアの種類も確定していないといわざるをえないから、被告がその価格に本件ゲームソフトウエアの上映の対価を含ましめることは不可能というべきであり、また、被告製品を販売した後は、被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアの上映がどの程度なされるかは、今後の被告製品の販売数量の見通しに関する資料にはなるとしても、原則として被告に何らの利害関係ももたらさないものと考えられるから、被告製品の価格について、製造原価その他の必要経費に適当な利潤を上乗せした金額のほかに、本件ゲームソフトウエアの上映の対価が加算されているということはできない。

被告は、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の製造販売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因果の流れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提として、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイできるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数のユーザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を惹起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行為と評価することができると主張するが、以上の説示に照らして採用することができない。

(3)  以上によれば、被告製品がもっぱら本件ゲーム機本体にのみ使用できること、被告製品が本件ゲームソフトウエアの上映に必要不可欠な機器であることを考慮しても、被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視することはできないといわなければならない。

(4)  被告は、仮に被告製品を購入したユーザーが本件ゲームソフトウエアの上映の主体であるとしても、被告もユーザーとともに上映の主体というべきであると主張するが、被告を右上映の主体とみることができないことは、前記説示から明らかである。

(三) なお、原告は、パックマン事件判決について、ハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機による上映を無断上映と断じたものであるとした上で、二人のプレイヤーによる対戦モードの本件ゲーム機の使用には対戦モード用のコントローラー(被告製品)が必要不可欠であり、しかも被告製品は原告の開発、設計した専用コントローラー(原告製品)の情報入力システムを盗用した模倣商品であるから、かかる被告製品の操作による本件ゲーム機の使用は、顧客とユーザーの違いを考慮に入れないとすれば、ハードシステムの盗用の点でパックマン事件判決の事案における「パックマン」の無断複製ゲーム機の使用と同視することができる旨主張する。

本件ゲームソフトウエアを上映するためには本件ゲーム機本体に接続が可能なコントローラーが必要不可欠であるとしても、コントローラーは、一種の電気信号による情報入力機器であって、その情報入力システムをどのように構成するかは、機械工学ないし情報工学上の技術的思想に外ならず、右のような技術的思想は、特許権等の工業所有権がない以上、何人も自由に実施することができるのであるから、原告がコントローラー(原告製品)について特許権等の工業所有権を有することについて何らの主張立証のない本件においては、原告が本件ゲーム機本体にのみ使用できるコントローラーないしは原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を有するコントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠はないというべきである。甲第一一ないし第一三、第六一、第六三号証及び証人疋島義隆の証言によれば、被告製品の回路構成は、連射機能に関わる部分を除き原告製品の回路構成と全く同じであることが認められ、被告において被告製品を開発、製造するに際し、原告製品の情報入力システムないし回路構成を模倣したことが窺われるが、右のとおり原告において原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を有するコントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠がない以上、これを模倣したコントローラーである被告製品を製造、販売することは、商道徳上の問題は別として、違法とはいえない。原告は、コントローラーは本件ゲームソフトウエアを上映する本件ゲーム機のハードウエアの基本的な構成部分であり、本件ゲーム機本体から完全に独立した周辺機器というようなものではないとか、本件ゲーム機本体及びコントローラーをどのような回路構成等にすることによりいかに効率的な情報の入出力及び合成処理を可能とするかが正にシステムの中核をなすなどと主張するが、右主張が本件ゲーム機本体及びコントローラーからなる回路構成等を模倣することそれ自体が違法であるとの趣旨であるとすれば、右と同様の理由により失当といわざるをえない。

パックマン事件判決は、いわゆるハードウエアのみではなくソフトウエアをも無断複製した事案についてのものと解され、ハードウエアたるコントローラーのみを模倣することにより上映権の侵害を認めたものとはいえず、また、家庭用のテレビゲーム機ではなく、無断複製品たる業務用ビデオゲーム機を喫茶店に設置して「パックマン」を上映していた経営者について上映権の侵害を認めたものであるから、本件とは事案を異にするという外はない。

3  したがって、原告の本訴主位的請求中、右上映権の侵害を理由とする差止等の請求及び損害賠償請求は理由がないといわなければならない。

二  争点2(被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであるか)について

1  証拠(甲八の1ないし7、三三、六一、六四、検甲七の1ないし4、証人疋島義隆、同橋口貞男)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告製品には、原告製品と同様、キャラクターを前後左右に動かしたり、何らかの行動を起こさせたりするために必要なレバー(被告製品における名称は「ジョイスティック」)一本及びゲーム操作用ボタン(被告製品における名称は「トリガーボタン」)四個が設置されているが、その外に、原告製品にはない連射機能を発揮する「ターボスイッチ」と称するスイッチが設置されている。

(二) 本件ゲーム機本体のCPUは、一定時間毎(通常は六〇分の一秒毎)にコントローラーから発せられる電気信号の値(オンかオフか)をサンプリング(読込み)して本件ゲームソフトウエアにその命令を伝達して作動させるものであるが、レバー及びボタンの操作によりコントローラーから発せられる電気信号の値の読込みの方法には、次の三種類がある(甲六四)。

(1)  コントローラーから発せられる電気信号の値をそのまま読み込むもので、レバー等をオンにし続けている限り、これをオンと認識する読込方法。レバーによるキャラクターの移動等に使用される。

(2)  コントローラーから発せられる電気信号の値がオフからオンに変わった瞬間だけオンと認識する読込方法(例えばレバー等を一〇秒間オンにし続けても、これをオンにした最初の瞬間だけオンと認識する)。ボタンによる攻撃等に使用される。

(3)  レバー等が一定時間以上押し続けられたときにはじめてオンと認識する読込方法。ボタンを押し続けたことによるパワー(気力)の増加や、同じボタンによる攻撃の大小の使分け(ボタンが一定時間以上押されていればより大きな攻撃ができる)に使用される。

(三) 被告製品に付加されている連射機能は、右(二)(2) の読込方法に対応するものであって、ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間は、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力するものである。プレイヤーがターボスイッチを使わずにコントローラーのボタンのオンとオフの操作を反復する場合、熟練したプレイヤーであっても、特別の道具を用いない限り一秒間当たりせいぜい約一八回の割合でしかボタンを押せないのに対し、ターボスイッチをオンにしてボタンを押し続ければ、ボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を本件ゲーム機本体内のCPUに入力することになる(甲六四)。

(四) そのため、ターボスイッチをオンにして連射機能を使用することにより、本件ゲームソフトウエアを受像機に映し出した影像に次のような影響を及ぼすことになる(甲三三)。

(1)  本件ゲームソフトウエアのうちシューティングゲーム(「ゴーストパイロット」「ASO2」「ラストリゾート」「アンドロデュノス」「ビューポイント」)、シューティングゲームの要素をもったキャラクターゲーム(「サイバーリップ」「ニンジャコンバット」「エイトマン」「ニンジャコマンドー」)又はアクションゲーム(「バーニングファイト」「戦国伝承」「戦国伝承2」「マジシャンロード」「ミューティションネイション」)については、ボタン操作による発射速度(連射速度)が速いほどゲームクリアが容易であるところ、ボタン操作に習熟せず、したがって自力では発射速度を速くすることができない初心者であっても、ターボスイッチをオンにするだけで自動的に高速の連射が行われるので、比較的容易にゲームクリアをすることができ、右各ゲームの難度が下がる結果になる。

(2)  対戦格闘ゲーム(「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ワールドヒーローズ」「ワールドヒーローズ2」「ファイアースープレックス」「サムライスピリッツ」)については、右(1) と同様の理由により、右各ゲームの難度が下がる結果になる。

また、右各ゲームにおいては、いわゆる「必殺技」という攻撃手段が用意されているが、右「必殺技」を繰り出すためには、レバーとボタンの操作を比較的複雑に組み合わせることが必要であるところ、被告製品における連射機能を使用すると、前記のとおりボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力することになるため、右のようなレバーとボタンの操作の組合せによる「必殺技」を繰り出すことが困難になる。

(3)  また、「ニンジャコンバット」「スーパースパイ」「サッカーブロール」「ラストリゾート」「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ビューポイント」という各ゲームについては、コントローラーのボタンを押し続けてパワーを溜めること(前記(二)(3) の読込方法)により特殊攻撃を繰り出すことができるところ、被告製品における連射機能を使用すると、前記のとおりボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力することになるため、ボタンを押し続けてパワーを溜めることによって繰り出すことのできる特殊攻撃を繰り出すことができなくなる。

(五) 連射機能の付いたコントローラーは、昭和五八年頃からファミコン用の別売りのコントローラーとして発売されている。

2  原告は、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げ、あるいは人気ゲームソフトウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右する重要な要素に影響を与え、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、ユーザーをしてその連射機能用ボタンを操作させ、本件ゲームソフトウエアを上映させる行為(ユーザーは被告の手足又は道具であり、被告の上映行為と評価される)は、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度、ひいては本件ゲームソフトウエアに込められた原告の思想及び感情を被告が原告の意に反して改変し、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものである旨主張するので、検討する。

(一) 前記1(三)認定のとおり、被告製品に付加されている連射機能は、同(二)(2) の読込方法に対応するものであり、ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力するものであって、ターボスイッチをオンにしてボタンを押し続ければボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を本件ゲーム機本体内のCPUに入力することになるから、受像機の画面上には、ボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押した場合と同じ影像が映し出される結果になる。

このように、被告製品における連射機能は、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して本件ゲーム機本体内のCPUに入力するものにすぎず、右のように入力されたゲーム操作情報に基づき、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従った影像が受像機の画面上に映し出されるにすぎないから、本件ゲームソフトウエアのプログラム自体には何らの改変も加えるものでないことが明らかである。

そして、本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機の画面上に映し出される影像は、個々のプレイヤーの熟練度、好み、操作の仕方等によりきわめて多種多様な変化ないしストーリー展開を予定しているものであることが明らかであって、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展開は、もっぱら本件ゲームソフトウエアを購入し、プレイをするユーザーにおいて、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方法、タイミングで電気信号を発するかに委ねられているというべきであるが、被告製品における連射機能が本件ゲームソフトウエアのプログラム自体に何らの改変も加えるものでない以上、連射機能を使用した場合でも、その影像の変化ないしストーリー展開は、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた範囲内のものといわなければならない。

もっとも、被告製品に付加されている連射機能は、ボタンを一秒間当たり約二二回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力するものであるところ、熟練したプレイヤーでも、特別の道具を用いない限りこのような時間的間隔で規則的に反復してボタンを押すことは不可能であるとしても、このことは右のとおりユーザーに委ねられたコントローラーからの電気信号(ゲーム操作情報)の入力の仕方の問題にすぎず、このことと本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機に映し出される影像自体の改変の問題とは直接関係がないというべきである。

(二) 原告は、被告製品の連射機能を使用することが本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるとする理由として、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げるものである旨主張する。確かに前記1(四)(1) のとおり、同記載の各ゲームにおいてはその連射速度がゲームクリアの成否に大きな影響を与えるものであるから、連射機能の使用によりゲームクリアが簡単になり、その意味で難度が下がることは明らかである。しかしながら、前記説示のとおり、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展開は、もっぱらユーザーにおいて、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方法、タイミングで電気信号を発するかに委ねられているというべきであって、ユーザーがその任意の選択により被告製品の連射機能を使用し、結果的に本件ゲームソフトウエアの難度を下げるような操作をすることも、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた影像の変化ないしストーリー展開の範囲を出ないというべきである。

原告は、また、被告製品の連射機能を使用することは、人気ゲームソフトウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右する重要な要素に影響を与える旨主張する。確かに前記1(四)の(2) 及び(3) のとおり、被告製品における連射機能を使用すれば、「必殺技」あるいは特殊攻撃を繰り出すことが困難あるいは不可能になるが、本件ゲームソフトウエアを使用したゲームの一場面において「必殺技」等を繰り出すかどうかは、正にその時点におけるプレイヤーの判断に委ねられているものであり、連射機能を使用したために右「必殺技」等を繰り出せなくなることは、プレイヤーがそのような選択をした結果にすぎず、プレイヤーが「必殺技」等を繰り出したいと考えれば、連射機能をオフにすることによりいつでも「必殺技」等を繰り出すことができるのであるから、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた影像の変化ないしストーリー展開の範囲内でプレイヤーの選択に委ねられたところといわざるをえない。

3  以上のとおり、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変するものとはいえないから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売する行為は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が専有する同一性保持権を侵害するものとはいえない。

したがって、原告の本訴主位的請求中、右同一性保持権の侵害を理由とする差止等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわなければならない。

三  争点3(本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか)について

1  まず、本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当するか否かについて検討する。

前記第二の三1のとおり、本件ゲーム機は、本体とコントローラーによって構成され、その本体に別売りの本件ゲームソフトウエアのカセットを差し込み、かつ、本体を家庭用テレビ等の受像機に接続することによってゲーム機として使用できるものであるが、本件ゲームソフトウエアは、ゲームカセット内に収納されていて、プログラムメモリーに、各テレビゲームのキャラクターや背景の形・色の影像情報、効果音やBGMの楽器音の音声情報、及びキャラクターをどの場面でどのように動かし、影像に合わせてどのような音楽を発生させるかを指示し、またゲームプレイヤーのコントローラー操作に対応してゲームのストーリーを変化させる多数多種の命令情報を記憶しており、右影像情報、音声情報及び命令情報を本件ゲーム機本体に指示するものであって、テレビゲームのあらゆる情報は、すべて本件ゲームソフトウエアに規定され蓄積されているものであり、また、コントローラーは、本件ゲーム機本体の端末と電気的に接続されていて、電気信号によりゲーム操作情報を本件ゲーム機本体にあるコンピュータのCPUに入力する機器であり、プレイヤーがコントローラーを操作することにより発せられるゲーム操作情報及びこれに対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報をCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、ビデオ回路を通じて影像信号を、音声回路を通じて音声信号を受像機に出力し、もって受像機の画面上に映し出される影像を変化させ、併せてスピーカーから音声を発生させるものである。

したがって、本件ゲーム機によって受像機に映し出される本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲームソフトウエアに蓄積された影像情報、音声情報及び命令情報によって規定されるものであるから、本件ゲームソフトウエアの種類が異なれば当然に異なることになり、コントローラーは、ゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に入力して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報の範囲内においてキャラクターの動きや背景等に変化をもたらすにすぎないものであって、本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、当該ゲームソフトウエア自体の商品表示となりうる余地はあるとしても、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示とはなりえないといわざるをえない。本件ゲームソフトウエアが本件ゲーム機によってのみ上映することができ、他社のゲーム機によっては上映できないものであるとしても、本件ゲームソフトウエア全体の種類は極めて多く(甲七)、キャラクターを主体とする各種影像とその変化の態様は個々のゲームソフトウエア毎にそれぞれ異なるものであるから、本件ゲームソフトウエアに含まれる個々のゲームソフトウエアの個々の各種影像とその変化の態様のすべてをもって本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示として統一的に把握することはできない。

2(一)  原告は、原告によるテレビ、新聞、雑誌等を通じての本件ゲームソフトウエアの全国的な広告宣伝及び人気ゲームソフトウエアのテレビアニメ化とその全国放映等により、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が、強い自他商品識別機能及び出所表示機能を取得するに至ったのであり、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一の機器であるとして、人気ゲームソフトウエアの強い自他商品識別機能及び出所表示機能と一体となって全国的に周知となった旨主張するが、右広告宣伝活動等により本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が強い自他商品識別機能及び出所表示機能を取得するに至ったとしても、本件ゲームソフトウエアに含まれる個々のゲームソフトウエアについていえることであって、コントローラーである原告製品についてまで、右各種影像及びその変化の態様が自他商品識別機能及び出所表示機能を取得したものとはいえない。

(二)  また、原告は、本件ゲームソフトウエアの特徴的なキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様及びその上映における本件ゲームソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の相互補完的な使用形態と遊戯方法という、本件ゲーム機の生命ともいうべき重要な構成要素によって、本件ゲーム機本体に接続して使用する原告製品についてもその個別性が識別され、原告の商品であることが表示されている旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、家庭用ゲーム機がゲームソフトウエア、ゲーム機本体及びコントローラーで構成されることは他社のゲーム機においてもみられる一般的な構成であることが認められ、かかる構成自体に本件ゲーム機特有の特徴があるわけではなく、本件ゲームソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントローラー(原告製品)の相互補完的な使用形態と遊戯方法なるものが、原告製品について原告の商品であることを識別する標識になるといえないことは明らかである。

(三)  なお、原告は、テレビ型ゲームマシン(業務用ビデオゲーム機)の受像機に映し出されるインベーダーを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様が第二次的に商品出所表示機能を備えるに至ったと認定したスペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決を挙げ、本件事案と右両判決の事案とは、不正競争防止法適用の観点からみる限り全く同一である旨主張する。

しかしながら、甲第一五、第一六号証によれば、右両判決は、ゲームソフトウエア、ゲーム機本体及びコントローラーが一個の機器を構成し、一体として取引の対象となる「テーブル型」あるいは「アップライト型」の業務用ビデオゲーム機に関する事案であるところ、本件ゲームソフトウエア、本件ゲーム機本体及びコントローラーは、それぞれ独立の機器として構成されたものであり、本件ゲーム機本体及びコントローラーはセットで販売されるものの、本件ゲームソフトウエアは常に別売りで販売されており、対戦用コントローラーである原告製品も単体で販売されているから、スペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決とは事案を異にするというべきである。

原告は、本件ゲーム機における本件ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーは機能的には不可分一体となっており、右のように三個の機器の構成としたのは、もっぱら家庭における遊戯上の便宜であるにすぎず、そのコントローラーの機能・役割は、ゲームソフトウエア、本体及びコントローラーが一個の機器となっている業務用ビデオゲーム機におけるコントローラー部分と全く同一であるなどとして、コントローラーがゲーム機本体及びゲームソフトウエアと物理的に一体となっているか否かは、本件ゲーム機のコントローラーについての自他商品識別ないし出所の表示に何ら影響を与えるものではない旨主張するが、本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様がその商品表示となりうる本件ゲームソフトウエアは、本件ゲーム機ないし原告製品とは常に別個に取引の対象とされているところ、右商品表示が本件ゲーム機ないし原告製品についても商品表示となるか否かについては、本件ゲームソフトウエアと本件ゲーム機ないし原告製品とが機能的に不可分一体であるか否かではなく、これらが一個の機器を構成し一体として取引されるものであるか否かという点がより重要な要素であると考えられるから、スペース・インベーダー事件判決及びワールド・インベーダー事件判決は、本件の参考にはならないというべきである。

3  以上のとおり、本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の変化の態様は、本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示としての機能を取得したものとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴主位的請求中、不正競争防止法二条一項一号に基づく差止等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわなければならない。

四  争点4(本件ゲーム機及び原告製品に使用された「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、原告の商品表示として周知性を取得したものであり、被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を使用して販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせるものであるか)について

1  まず、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示の周知性について検討するに、証拠(甲四の1ないし4、六、七、二〇、二一、二二の1ないし8、二三、二四、二六ないし三二、三五ないし四二、五〇、五一、五五の1ないし5、五六の1ないし5、五七ないし六一、検甲一ないし三、五の1・4・7、乙一〇の1ないし4、三四、証人疋島義隆)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし(六)の各事実が認められる。

(一) 原告は、平成二年三月頃から「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品名の業務用ビデオゲーム機及び本件ゲーム機(家庭用テレビゲーム機)を開発・製造し、その販売を開始した。本件ゲーム機は、基板(マイクロ・コンピュータシステムを利用した影像・音声再生装置の回路基板)ごとに一つのゲームが作られていた業務用ビデオゲーム機とは異なり、ゲームソフトウエアプログラムを収納固定するプログラムメモリーをゲームカセットとして分離し、ゲームカセットを取り替えることにより多種類のゲームを楽しむことができるようにしたものであり、また、当時の家庭用テレビゲーム機のゲームソフトウエアの容量が二メガないし四メガであったのに対し、これを大きく超える最大容量三三〇メガのゲームソフトウエアに対応でき、かつ、高速CPUを搭載した高性能のゲーム機であった。そのため、本件ゲーム機は業界及びユーザーの注目を集め、原告も原告の主力商品として継続的に宣伝広告を行った。

(二) 本件ゲーム機本体(検甲一)及びコントローラー(検甲三)には、直接、「NEO・GEO」という商品表示が上面手前側中央に大きく表示されているほか、その包装箱(乙三四)の上面、背面、両側面及び取出口の面には、「NEO」と「GEO」が二段に表示されており、本件ゲーム機専用の対戦用コントローラーとして単体で販売されている原告製品は、右の本件ゲーム機本体とセットで販売されているコントローラーと同一の商品であり、それ故直接「NEO・GEO」という商品表示が上面手前側中央に大きく表示されているほか、その包装箱(乙一〇の2ないし4)の上面及び四側面には「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されており、その上と下にやや小さくそれぞれ「SNK」「コントローラー」と表示されている。

また、本件ゲームソフトウエアのゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込み、スイッチを入れたときのゲームタイトル画面に先立つ冒頭の画面(検甲五の1・4・7)では、画面やや上部中央に「NEO・GEO」という商品表示が大きい文字で表われ、その下にこれよりかなり小さい文字で三段に「MAX 330 MEGA」「PRO-GEAR SPEC」「SNK」と表われる。

(三) 本件ゲーム機は、発売当初、前記のような高性能を十分に生かすことのできるゲームソフトウエアが開発されていなかったこともあって、その売上げは必ずしも好調でなかったが、平成三年一二月二〇日、原告が本件ゲーム機専用のゲームソフトウエアである格闘ゲームソフトウエア「餓狼伝説」を発売するに及んで(業務用ビデオゲーム機としては同年一一月に発売した)、後記のとおり急速に売上げを伸ばすことになった。

「餓狼伝説」は、前記第二の三1(三)のとおりのストーリー性を備えたゲームソフトウエアであり、発売当初からテレビゲームユーザーに好評をもって迎えられ、いわゆるヒット作品となった(発売月の平成三年一二月一か月間で四六四七本、発売後四か月間で一万〇四四〇本、平成六年三月までの合計で二一万〇二四三本)。更にその後、原告は、平成四年一二月に「龍虎の拳」、平成五年三月に「餓狼伝説2」、同年八月に「サムライスピリッツ」、同年一二月に「餓狼伝説スペシャル」というように、ゲーム容量が一〇〇メガを超えるゲームソフトウエアをたて続けに発売したが、これらは、人気ランキングで上位を占め、慢性的な品切れ状態になるほどの売上げをあげた(「龍虎の拳」は、発売月の平成四年一二月一か月間で一万八一一六本、発売後四か月間で二万七二三四本〔小売価格にして約七億六二〇〇万円〕、平成六年三月までの合計で二万八九九九本。「餓狼伝説2」は、発売月の平成五年三月一か月間で四万六三六六本、発売後五か月間で五万六四六八本〔小売価格にして約一六億円〕、平成六年三月までの合計で五万九五一一本。「サムライスピリッツ」は、発売月の同年八月一か月間で一万九七五一本、発売後五か月間で八万八一〇三本〔小売価格にして約二五億円〕、平成六年三月までの合計で九万〇七一八本。「餓狼伝説スペシャル」は、発売月の平成五年一二月の一か月間で一〇万五八九四本、平成六年までの合計で一三万四五七一本)。

そして、本件ゲーム機は、本件ゲームソフトウエアを上映できる唯一のゲーム機として、その画質及び音声の迫真性、リアルさ等によって盛んに一般誌及び専門誌に取り上げられるようになり(後記(六)参照)、併せて原告による継続的な宣伝広告活動により、本件ゲーム機及び対戦用コントローラーとして単体で販売されている原告製品の販売数量も、本件ゲームソフトウエアの販売数量の増大に伴って飛躍的に増大した。すなわち、本件ゲーム機及び原告製品の販売数は、「餓狼伝説」が発売される前の平成三年一〇月、一一月には、本件ゲーム機がそれぞれ一七六個、一一六個であり、原告製品がそれぞれ三七五個、三二八個であったところ、「餓狼伝説」が発売された同年一二月には、本件ゲーム機が一三〇五個、原告製品が一五三六個に増加し、その後、「龍虎の拳」が発売された平成四年一二月には、本件ゲーム機が前月比一八〇〇個増の四〇九二個、原告製品が前月比二六四九個増の三八九九個に、「餓狼伝説2」が発売された平成五年三月には、本件ゲーム機が前月比七七五八個増の一万七六六〇個、原告製品が前月比三二五五個増の一万一九二二個に、「サムライスピリッツ」が発売された同年八月には、本件ゲーム機が前月比三二九八個増の八〇一八個、原告製品が一八四九個増の五七九七個にそれぞれ増加し、更に同年一一月までの間、本件ゲーム機は九月一万四八〇〇個、一〇月二万三五〇九個、一一月二万三九二九個、原告製品は九月九六六九個、一〇月一万三七六〇個、一一月一万七三〇五個というように、継続して順調にその売上げを伸ばした。そして、「餓狼伝説スペシャル」が発売された同年一二月には、本件ゲーム機は前月比四四七二個増の二万八四〇一個に増加したが、原告製品は一三八二個減少して一万五九二三個となった。平成三年一二月から平成六年三月までの間の販売数の合計は、本件ゲーム機が一九万一三八二個、原告製品が一四万七六三八個である。

(四) 原告が本件ゲーム機等の宣伝広告(具体的にはテレビのスポンサー番組による広告及びスポット広告、漫画誌及び業界誌による広告)のために支出した費用は、平成元年九月期(昭和六三年一〇月から平成元年九月までの事業年度をいう。以下同様)一億〇八七三万六五六五円、平成二年九月期五億二九九六万二九六〇円、平成三年九月期二億九八三〇万〇五八四円、平成四年九月期一二億六三八六万五四四九円、平成五年九月期一八億二三〇二万二〇〇〇円であり、平成五年一〇月から一二月までは、各月それぞれ一億九〇七七万一六七六円、一億六一〇二万〇四九一円、一億九九六一万七二二六円の合計五億五一四〇万九三九三円である。

(五) 「餓狼伝説」は、平成四年一二月に同名のままテレビアニメ化され、「餓狼伝説2」は平成五年七月に「バトルファイターズ餓狼伝説2」としてテレビアニメ化され、スペシャルテレビ番組としてフジテレビ系で全国放映され、いずれも一五%前後の視聴率を上げ、平成六年夏には、アニメーション映画化され劇場公開された(右劇場公開を報ずる平成六年六月二三日付産経新聞夕刊の記事には、「餓狼伝説」は全国で五〇〇万人の熱狂的なファンをもつといわれるヒット商品との記載がある)。また、「龍虎の拳」は、平成五年一二月「バトルスピリッツ龍虎の拳」としてテレビアニメ化され、同じくフジテレビ系で全国放映された。

平成五年一一月には、「餓狼伝説2」の登場人物を印刷した子供向け遊戯用キャラクターカードを原告に無断で製造、販売していた業者が、不正競争防止法違反の疑いで警察に逮捕された。

本件ゲーム機(本体とコントローラー)は、平成四年一〇月一日付で通商産業大臣から同年度グッドデザイン賞を受賞している(甲三五)。

また、「餓狼伝説」、「龍虎の拳」、「餓狼伝説スペシャル」、「サムライスピリッツ」は、セガや任天堂等の他社からそのテレビゲーム機(メガドライブやスーパーファミコン)で使用できるゲームソフトウエアに移植することの許諾を求められ、原告はこれを許諾した。この関係で、「ファミコン通信」平成五年五月七日・一四日号(甲五五の1~5)には、「徹底攻略 餓狼伝説」「なんと、あの格闘アクション巨編『餓狼伝説』メガドライブ版を徹底攻略だっ!」「ネオジオ版の感動が再び!」「この餓狼伝説はネオジオから移植された、対戦型の格闘アクションゲーム」、「特報龍虎の拳」「ネオジオの普及台数をいっきに増やしたといわれる格闘アクションゲーム『龍虎の拳』」「ネオジオの大ヒット作が移植」との記事が掲載されており、「電撃スーパーファミコン」平成六年七月一五日号(甲五六の1~5)には、「オレたちを熱くさせた、NEO・GEOの爆発ヒット格闘ゲーム餓狼伝説スペシャルとサムライスピリッツ。あの狼が、あの侍が、そっくりSFCに移植されて、まもなくわれわれの前に登場するのだ!」との記事が掲載されている。

(六) 本件ゲーム機の宣伝広告及び一般誌等による本件ゲーム機の紹介記事は、すべて本件ゲーム機ないし原告製品について「NEO・GEO」又は「ネオジオ」の商品名を表示してなされている。

例えば、雑誌「mono」平成四年八月一六日・九月二日号(甲四の2)には、「100メガゲーム維新、ついに始まる!」との見出しのもとに、「NEO・GEO」という商品表示を表示した本件ゲーム機(本体とコントローラー)の写真が掲載され、「かつてない100メガの大容量ゲームが、この夏、ついにNEO・GEOからリリースされる。」との記載があり、雑誌「日経トレンディ」平成四年一月号(甲四の4)には、「それでもゲームが面白い。」との見出しのもとに、「NEO・GEO」という商品表示を表示した本件ゲーム機の写真が掲載され、「ビジネスピープルの感性にたえる、ド迫力エンタテインメントツール<NEOGEO>の高性能とは!」との記載があり、「ファミコン通信」平成六年一月七日・一四日号(甲三六)には、「比類なきNEOGEO MAX330MEGA」との見出しのもとに本件ゲーム機及び本件ゲームソフトウエアの紹介記事がある。

以上の(一)ないし(六)の事実によれば、本件ゲーム機は、その専用ゲームソフトウエアである「餓狼伝説」等の本件ゲームソフトウエアが人気を博して売上げを伸ばすのに伴って著しく売上げを伸ばし、その間、本件ゲームソフトウエアの人気及び本件ゲーム機自体の高性能さ(最大容量三三〇メガのゲームソフトウエアに対応でき、高速CPUを搭載していること)が専門誌、一般誌等に紹介され、あるいは原告により継続的に本件ゲームソフトウエア及び本件ゲーム機の宣伝広告活動がされたものであり、本件ゲーム機ないし原告製品自体及びその包装箱には「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているだけでなく、右専門誌等での紹介や宣伝広告活動に当たって、当初から一貫して本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として右「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が使用されてきたものであるから、右商品表示は、本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として、遅くとも「龍虎の拳」が発売されるとともに「餓狼伝説」がテレビアニメ化され、続いて「餓狼伝説2」が発売された平成五年三月頃には需要者の間に広く知れわたったものというべきである。被告は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」が本件ゲーム機の商品名であるとしても、その知名度はせいぜい本件ゲーム機本体の商品名としての知名度にとどまるものと思われると主張するが、原告製品は、本件ゲーム機本体とセットで販売されているコントローラーと同一商品であり、これをただ別売りしているにすぎないものであり、したがって、それ自体に「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているだけでなく、その包装箱にも「NEO・GEO」という商品表示が大きく表示されているのであるから、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示は、本件ゲーム機(本体とコントローラー)だけでなく原告製品についても、原告の商品であることを示す商品表示として同時に周知性を取得したことが明らかである。

なお、前記(五)のとおり、本件ゲームソフトウエアのうち「餓狼伝説」「龍虎の拳」「餓狼伝説スペシャル」「サムライスピリッツ」は、セガや任天堂等の他社製のテレビゲーム機(メガドライブやスーパーファミコン)で使用できるゲームソフトウエアに移植されていることが認められるが、右移植に関する記事が掲載された雑誌の発行年月日に徴すれば、右移植が行われたのは、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として周知性を取得した平成五年三月頃より後のことと認められ、しかも、右各雑誌には「餓狼伝説」等のゲームソフトウエアが「ネオジオ」から「メガドライブ」や「スーパーファミコン」に移植されたものであることが明記されているから、右移植の事実は、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が原告の商品表示として周知性を取得したとの前記認定の妨げとなるものではない。むしろ、セガや任天堂が原告に移植の許諾を求めたことは、「餓狼伝説」等の人気の高さを物語り、ひいては右商品表示の周知性を裏付けるものというべきである。

2(一)(1) 被告が平成五年一二月一七日から販売を開始した被告製品(一)についてみるに、甲第八号証の1ないし7、検甲第四号証、乙第一〇号証の5ないし8によれば、被告製品(一)自体及びその包装箱には、次の表示がされていることが認められる。

被告製品(一)の上面は、黒地で、中央やや左寄りに別紙商品表示目録(一)記載の態様で「Fighting Stick」「NEO」と二段に表示され、左上隅にやや小さく「HORI」と表示されている。

包装箱の上面は、上から約五分の一の幅で別紙商品表示目録(二)記載の態様で、「ファイティングスティック」「NEO」と二段に、左側にやや小さく「FIGHTING STICK NEO」と表示され、その下約五分の四の幅のところに被告製品(一)の上面を真上から撮影した写真が掲載されており、その写真には、右の被告製品(一)上面の表示がそのまま表われている。そして、四つの側面にも、右と同様に別紙商品表示目録(二)記載の態様で「ファイティングスティック」「NEO」、「FIGHTING STICK NEO」と表示されている。

(2) 被告が平成六年一二月二八日から販売を開始した被告製品(二)についてみるに、検甲第七号証の1ないし8、検甲第八号証の2・3によれば、被告製品(二)自体及びその包装箱には、次の表示がされていることが認められる。

被告製品(二)の上面は、黒地で、中央やや左寄りに別紙商品表示目録(三)記載の態様で「Fighting Stick」「NEOII」と二段に表示され、左上隅にやや小さく「HORI」と表示されている。

包装箱の上面は、被告製品(二)を手前側の右斜め上方から撮影した写真がほぼいっぱいに大きく掲載され、その写真には、右の被告製品(二)上面の表示がそのまま表われており、下から約三分の一の幅で左寄りに別紙商品表示目録(四)記載の態様で、「Fighting」「Stick」と二段に、その右横に二段分の高さで「NEOII」、その下に小さく横書きで「ファイティングスティックネオII」と表示されており、右上隅にやや小さく「HORI」と表示されている。そして、四つの側面にも、右と同様に別紙商品表示目録(四)記載の態様で「Fighting」「Stick」、「NEOII」、「ファイティングスティックネオII」と表示されている。

(二) 右(一)認定によれば、被告は、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」及び「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を、全体として被告製品の商品主体の識別機能を発揮させる態様で、すなわち商品表示として使用していることが明らかである。

被告は、被告が使用している「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」又は「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示は、被告製品が本件ゲーム機本体に適合するものであることを示す用途表示であって、被告製品の商標として使用しているものではなく、かつ、「NEO・GEO」そのものではなく、その一部であるから、かかる表示を付して被告製品を販売することは、何ら不正競争防止法二条一項一号の不正競争に該当するものではない旨主張する。右表示中の「NEO」は、「NEO・GEO」を意味するものであるところ(証人橋口貞男)、被告製品が本件ゲーム機本体を対象機種とするものであることからすれば、本件ゲーム機本体に適合するものであることを示す用途表示としての態様で「NEO・GEO」の表示を使用することは許されると解する余地があるとしても、被告による「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」及び「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示の使用態様は、前記の別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載のとおりであり、その使用態様に照らせば、到底用途表示ということはできず、「NEO」という部分を含めた全体が一体として被告製品の商品主体を表示する機能を有するものといわなければならない。

(三) そして、前記1のとおり、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」の商品表示は、本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として遅くとも平成五年三月頃には需要者の間に広く知れわたっていたことに照らせば、被告が被告製品(一)に「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示を、被告製品(二)に「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を前記の態様で使用して販売することは、被告製品が原告の商品であるかのように混同を生じさせるものといわなければならない。

(四) 被告は、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」又は「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示は、「NEO・GEO」という表示と類似せず、混同を生じない旨主張し、その理由として以下のとおり主張するが、いずれも失当というほかない。

(1)  まず、被告は、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」と「NEO」とは同価値ではなく、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」が主であり、かつ、被告製品の基本商標であって、「NEO」は用途表示としての機能を持たせつつ付加されたものであり、文字数や音節数を比べても、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」の方が「NEO」よりも多いので、被告製品を識別するためには前者が要部として重視されることが理解できると主張するが、その使用態様から「NEO」が用途表示とはいえないことは前記のとおりであり、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」よりも「NEO」又は「NEOII」の方が目立つように表示されているのであり、需要者の目を惹くものといわなければならない。

(2)  被告は、そもそも「NEO」は、単に「新」という意味の接頭辞にすぎず、それ自体から直ちに「NEO・GEO」を想起させるものではなく、「NEO」を含む登録商標は、被告の知りえた限りでも原告・被告の属する業界の商標分類第二四類だけでも二〇件に及ぶのであるから、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」という表示から「NEO」なる部分を特に取り出し、その前についている「ファイティングスティック(Fighting Stick)」という部分を故意に脱落させて「ネオジオ」又は「NEO・GEO」と混同を生じさせるとするのは全く根拠がないと主張する。

しかし、「NEO」という語は本来は「新」という意味の接頭辞にすぎず、「NEO」を含む登録商標が第二四類に多数登録されているとしても、テレビゲーム機に関しては「NEO・GEO」といえば原告の本件ゲーム機ないし原告製品を指すことが周知になっていたのであり、それ故「NEO」というだけで「NEO・GEO」すなわち本件ゲーム機ないし原告製品を指すものであると認識されているのである(被告の取締役技術部長である証人橋口貞男も、前示のとおり、「NEO・GEO」を意味するものであることを認めているし、そもそも「NEO」は用途表示として付加されたとの前記(1) の被告の主張とも矛盾する)。

(3)  被告は、「ファイティングスティック」は、被告が平成四年七月三一日にスーパーファミコンに対応するコントローラーを「ファイティングスティック」の名称で発売して以来、「ファイティングスティックPC」(平成五年六月一六日)、「ファイティングスティックマルチ」(平成五年九月三〇日)、「ファイティングスティックNEO」(平成五年一二月一七日)、「ファイティングスティックNEOII」(平成六年一二月二八日)、「ファイティングスティックDUAL」(平成六年一一月一九日)、「ファイティングスティックPS」(平成六年一二月一〇日)、「ファイティングスティックSS」(平成六年一二月二二日)、「ファイティングスティックDUAL PLUS」(平成七年二月九日)というように「ファイティングスティック」シリーズとして販売し続けてきたものであって、「ファイティングスティック(Fighting Stick)」という商標は、被告の商品表示としてゲーム機業界及び顧客層の間で周知であるから、原告の商品であるとの混同は生じないと主張するが、仮に右のとおり被告が他社製のゲーム機本体に対応するコントローラーを「ファイティングスティック」シリーズとして販売し続けてきたとしても、被告製品のような別売り(単体)のコントローラーを購入する需要者にとってはいかなるゲーム機本体に対応するものであるかが一番の関心事であり、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が本件ゲーム機ないし原告製品の商品表示として周知性を取得している状況において、前記のとおり「ファイティングスティック(Fighting Stick)」よりも「NEO」又は「NEOII」の方が目立つように表示されているのであるから、需要者は、被告の製造、販売するコントローラーに一般的に表示されている「ファイティングスティック(Fighting Stick)」の部分よりも、「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示の一部をそのまま採用した「ネオ」又は「NEO」の部分に着目するものというべきである。

(4)  更に被告は、被告製品と原告製品の具体的な相違点を種々挙げた上、実際、ユーザーは、ユーザーの間でそのコントローラーが品質、操作性、デザインなどの点で優秀であることが周知の事実である被告の製造、販売したコントローラーであると認識して被告製品を購入するのであって、被告製品を原告の製造、販売したコントローラーであると誤認混同して購入するわけではないと主張するが(第三の四【被告の主張】3(四))、製品にその主張のような違いがあるとしても、前示のような商品表示の類似性に基づく混同を妨げるものとはいえない。

(五) 以上のとおり、「ファイティングスティックNEO(Fighting Stick NEO)」及び「ファイティングスティックNEOII(Fighting Stick NEOII)」という表示を前記の態様で使用した被告製品を販売する行為は、原告の商品であるかのように混同を生じさせる行為として不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当するものというべきであり、これにより原告が営業上の利益を侵害されていることが明らかであるから、原告は被告に対し、同法三条に基づき、その販売する被告製品に、別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用し、又はこれを使用した被告製品を販売すること及び被告製品の容器箱、包装紙又はその広告に別紙商品表示目録(一)ないし(四)記載の各表示を使用することの停止を求めることができるというべきである。但し、原告の本訴予備的請求にかかる差止請求中、右記載の態様以外での「ネオ」又は「NEO」の表示の使用の停止を求める部分は、理由がないというべきである。

また、弁論の全趣旨によれば、右不正競争行為につき被告には少なくとも過失のあることが明らかであるから、原告は被告に対し、同法四条に基づきその損害の賠償を求めることができるというべきである。

なお、被告は、原告はコントローラー(原告製品)について実用新案登録出願をしていないにもかかわらず、原告製品を国内販売するのに使用していた包装箱(乙一〇の3)に、「実用新案出願中」なる文字を記載しており、かかる虚偽の表示をして原告製品を販売している原告には、被告製品の販売行為に対して不正競争防止法による保護を主張して差止めや損害賠償を求める資格はないと主張するところ(第三の三【被告の主張】5)、原告が本件ゲーム機における対戦用コントローラーとしての原告製品自体について実用新案登録出願をしていると認めるに足りる証拠はないにもかかわらず(証人疋島義隆は、コントローラーについて特許あるいは実用新案登録の出願をしている旨証言するが、乙第二〇号証の1ないし4、第二一号証の1ないし10に照らし、採用できない)、乙第一〇号証の3によれば、原告は、原告製品の国内販売用の包装箱の側面に「実用新案出願中」という表示を印刷している事実が認められるが、検甲第一、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲーム機(本体及びコントローラー)を販売するための包装箱にはそのような「実用新案出願中」という表示は印刷されていないことが認められ、前認定の事実関係に照らし、右原告製品の国内販売用の包装箱の側面における「実用新案出願中」という表示の故に「ネオジオ」又は「NEO・GEO」という商品表示が周知性を取得したという因果関係にないことが明らかであるから、右「実用新案出願中」の表示を印刷したことは、それ自体相当ではないものの、だからといって原告が不正競争防止法による保護を受ける資格がないとまでいうことはできない。

五  争点5(被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

1  被告が平成五年一二月に被告製品(一)を一個当たり三九四四円で合計二万個販売し、一個当たり二〇三〇円の利益を得たことは、反訴に関する前記第三の七【被告の主張】1(一)において被告自ら主張するところであり、原告は右主張を援用したものであるから、右事実は当事者間に争いがないことになる(販売個数二万個については、平成六年一月二一日付答弁書でも自白している)。もっとも、被告は、その後被告製品(一)の販売個数は一万九九〇〇個である旨その主張を変更したので(被告の平成八年一一月五日付準備書面)、販売個数一〇〇個について自白を撤回したことになるが、被告は、右自白が真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるとの主張、立証をしないから、右自白の撤回は無効である。したがって、被告が右平成五年一二月の被告製品(一)の販売によって得た利益は、合計四〇六〇万円であることが明らかである。

2  被告が平成六年三月に被告製品(一)を追加販売したことは当事者間に争いがない。

その販売個数については、被告は九九〇〇個であると主張するのに対し、原告は、平成六年四月四日付訴えの変更申立書により、被告は平成六年三月一四日頃に被告製品(一)を合計二万個製造、販売したものであると主張し、その後も右主張を維持しながら、商標法三九条、特許法一〇五条の類推適用に基づき、被告の不正競争による原告の損害の計算をするため必要な書類として、平成五年一〇月一日以降現在に至るまでの被告製品(一)及び被告製品(二)について記載のある被告の総勘定元帳等の帳簿書類の提出命令を求めた(平成七年(モ)第七四八四号文書提出命令申立事件)ものであるから、右文書提出命令の申立ては、右帳簿書類に右主張どおりの記載があることを黙示的に主張したものというべきである。しかるところ、被告は、当裁判所が平成八年一月二二日付で総勘定元帳、売掛台帳、買掛台帳、売上元帳、仕入元帳及び売上伝票の提出を命じたにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じなかったことは訴訟上明らかであるから、平成五年一二月の被告製品(一)の販売個数が二万個であったこと、その他反訴に関する前記第三の七【被告の主張】1(一)の主張に照らし、右文書提出命令の対象となった書類に関する原告の主張、すなわち、被告が平成六年三月に製造、販売した被告製品(一)の個数が合計二万個であったとの事実を真実と認めるのが相当である。

そして、右平成六年三月販売の被告製品(一)の販売単価及び一個当たりの利益の額は、直接これを立証するような証拠はないが、右被告製品(一)は、平成五年一二月に販売した被告製品(一)と全く同一の製品であり、小売価格も同じ六八〇〇円であることは被告の認めるところであるから、平成五年一二月の場合と同様、その販売単価は三九四四円であり、一個当たりの利益の額は二〇三〇円と推認され、これに反する証拠はない。

したがって、被告が右被告製品(一)の追加販売によって得た利益は、合計四〇六〇万円であると認められる。

3  被告が平成六年一二月に被告製品(二)を合計二万四三〇〇個販売したことは、当事者間に争いがない。被告製品(二)は、実質的に被告製品(一)と同一のコントローラーであり、小売価格も同じ六八〇〇円であることは被告の認めるところであるから、特段の事情の認められない本件においては、その一個当たりの利益の額も被告製品(一)と同額の二〇三〇円と推認され、これに反する証拠はない。

したがって、被告が右被告製品(二)の販売によって得た利益は、合計四九三二万九〇〇〇円であると認められる。

4  以上のとおり、被告は、被告製品の販売により合計一億三〇五二万九〇〇〇円の利益を得たものであるから、不正競争防止法五条一項により、右の額は被告の不正競争により原告の被った損害の額と推定される。

したがって、原告の予備的請求中、被告に対し、右損害額の内金として一億二一八〇万円の支払を求める損害賠償請求は理由があるというべきである。

六  争点6(原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として被告に対する不法行為を構成し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか)について

1  被告は、まず、本訴請求にかかる訴え等の提起・維持は、何ら法律上の根拠がないのに原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を構成すると主張する。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和六三年一月二六日第三小法廷判決・民集四二巻一号一頁参照)。

これを本件についてみるに、本訴請求のうち、主位的請求にかかる映画の著作物の著作権に基づく請求、著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求及び不正競争防止法二条一項一号に基づく請求は、前示のとおり結局理由がないものとして棄却すべきものではあるが、被告が原告の製造、販売する本件ゲーム機本体にのみ接続可能なコントローラーであって連射機能を付加した被告製品を原告の了解を得ることなく製造、販売している事実自体は争いがなく、被告による右被告製品の販売行為が映画の著作物についての上映権の侵害行為となり、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであり、あるいは、本件ゲーム機によって映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様は本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当するという原告の法律上の主張については、結果的に当裁判所の採用しないところではあるものの、一応一つの見解としては成り立ちうるものであって、理由のないことが誰の目から見ても明らかであるとまではいえず、本件全証拠によるも、提訴者である原告において右法律上の主張が理由のないことを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知りえたとも認められず、本件訴訟の全過程をみても本訴請求にかかる訴え等の提起・維持が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえないことが明らかであるから、被告に対する不法行為を構成しないというべきである。加えて、当裁判所が原告の予備的請求を一部認容すべきものと判断したように、原告の本訴請求も、その請求の趣旨、原因いかんによっては理由があることになるのであるから、なおさら不法行為を構成しないといわなければならない。

2  また、被告は、原告は平成六年三月一五日の第二回口頭弁論期日で陳述した同月一四日付第一準備書面において、被告は「原告製品のシステムを盗用」した、というように「盗用」という語を前後一一回にわたって使用しているが、「盗用」という語の意味は「盗んで用いること」であると解され、「盗む」とは、「横領」と異なり、相手方の占有を侵奪することを意味するから、原告は、被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したことになるところ、被告は原告の占有下にある「システム」を侵奪し、これを被告の占有下においたことはないから、原告の主張は事実無根であり、被告に対する名誉毀損になることは明らかであり、仮に、「盗用」という語に占有侵奪という意味がないとしても、「盗用」という語は、「盗聴」あるいは「盗作」等と同じように反社会的で否定的価値判断を含んだ語であることは否定できないから、かかる反社会的な行為を被告が行ったということを公然と摘示することは、被告の名誉を毀損する行為であるというべきである旨主張する。

訴訟において自己の請求の事実的、法律的根拠を基礎づけるための主張内容を準備書面に記載し、これを公開の口頭弁論期日において陳述することは、正当な訴訟活動であり、訴訟活動としての性質上右記載内容又は陳述内容がときとして相手方を批判、非難するようなものであったとしても、それが本来の訴訟遂行目的とは離れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図してされた場合や、その態様が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものではない限り、正当な訴訟活動として是認されるべきであると解するのが相当である。

これを本件についてみると、もともと「盗用」という語は、必ずしも相手方の占有を侵奪することを意味するものではなく、むしろ、「デザインの盗用」「論文の盗用」などというように、他人の抽象的な表現物を無断で使用することを意味するものであり、被告が原告製品のシステムを「盗用」したとの文言を使用した準備書面に記載された原告の主張の趣旨に照らしても、それは、被告の主張するように被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したというものではなく、単に被告が原告製品のシステムを「模倣」したという趣旨の主張と解すべきことは明らかであり、前示のとおり被告製品の回路構成は連射機能に関わる部分を除き原告製品の回路構成と全く同じであるから、「模倣」と表現してもあながち不当とはいえない。したがって、「盗用」という文言自体は、やや不適当といえなくもないが、本来の訴訟遂行目的とは離れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図したものとも、その態様が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものともいえないことが明らかであるから、被告の名誉を毀損する不法行為を構成するということはできない。

3  以上によれば、被告の原告に対する反訴請求は、理由がないというべきである。

第五結論

よって、原告の本訴主位的請求をいずれも棄却することとし、予備的請求のうち、差止請求は主文第二項1及び2の限度で認容し、その余は棄却し、損害賠償請求を認容することとし、被告の反訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

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